CAのここだけの話

「日本はなぜそんなに完璧なの?」個性豊か、130カ国のCAと働くということ

佐藤麻衣

 SankeiBiz読者のみなさんにだけ客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第107回は中東系航空会社で乗務10年目の佐藤麻衣がお送りいたします。

中東系航空会社で日本人CAとして働く佐藤麻衣さん。インドネシアのバリ島へはフライトではなく旅行で。コロナ前は連休があればふらっと旅行に行くこともできていたそうです。提供:本人
フライト先のエジプトでは、一緒に乗務したクルーたちとピラミッド観光へ。提供:執筆者
フライトで訪れたイギリスはちょうどラベンダーの最盛期。ロンドン郊外に足を伸ばすと、爽やかな香りが広がるラベンダー畑が。提供:執筆者
フライト先のギリシャ・アテネでは、パルテノン神殿を訪れました。提供:執筆者

初めて会う仲間と力を合わせて、お客様の命を預かる

 中東系航空会社で働く醍醐味の一つは様々な国籍の人たちと出会えることです。南極大陸を除く全ての大陸に就航しているということもあり、利用されるお客様の国籍も採用されるクルーの国籍もそれだけ多くなります。また中東のいくつかの国は外国人労働力に頼っていて、私の住む国でも人口の9割以上は外国人で、世界各国から集まってきた人たちが働いています。

 私の勤務する航空会社ではクルーだけでもその出身国は約130カ国にのぼります。フライトのメンバーは毎回違うので、お客様だけでなくクルーともまさに一期一会。ブリーフィング(フライト前の情報共有のミーティング)の際は名前や国籍、乗務歴などを含む自己紹介が不可欠です。このような環境では常に他者や多文化をリスペクトすること、またステレオタイプを持たないことは大前提です。

 私が入社した当時は約6000人だったクルーもコロナ前までには倍以上に増え、それとともに採用対象となる国籍も格段に増えました。国籍に関係なく世界中どこへでも飛ぶことができるので、フライトで日本人が自分一人というのは日常茶飯事です。

 そんな多国籍で個性的な人たちと世界中を飛び回り、互いに協力して作り上げるフライトは毎回貴重な経験です。しかし、それは、初めて会った同僚を信頼しなくてはお客様の命を預かるという、安全第一の仕事はできないということでもあります。

 このような環境なので、一緒に飛んだクルーとは二度と会えないこともよくあるのです。フライトは毎回出会いの連続で新鮮です。

 そんな中でも特定のクルーと2回連続でフライトしたり、数カ月前に一緒に仕事したクルーと再会したりした時にはとても嬉しくなります。

乗務1年目で乗務したモスクワ便で一緒に仕事したフィリピン人クルーとは、なんとその5年後に成田便で再会し本当に感動しました! 「あの時、一緒にモスクワ観光に出掛けたよね?」と思い出話に花が咲きました。

乗務1年目に出会った、忘れられない言葉

 私はいま、フライト責任者として乗務しています。一期一会の環境では、ポジティブな気持ちで明るく仕事をするのはとても大切です。ブリーフィングでその雰囲気を作りリードするのはフライトの責任者の仕事です。私自身、責任者に就任してから心掛けていることの一つでもあります。

 乗務1年目の時のブリーフィングで忘れられない出来事がありました。ブリーフィングは全員が椅子に座っておこなうのですが、その日のフライト責任者からこんなことを言われたのです。

「客室乗務員として働いていることを誇りに思って。なりたくてもなれない人たちもいるのよ。あなたたちが今座っているその席に座りたい人たちが世界中にどれだけ居るか考えてみて」

 今ある状態や生活を当たり前と思わずに、一日一日を丁寧に常に感謝して過ごすことが大切だと気付かされた瞬間でした。以来、仕事で嫌なことがあった時などに、その言葉を思い出しては「もうちょっと頑張ってみようかな」と自分に言い聞かせ、現在に至ります。

まるでミス・ユニバースの質疑応答コーナー

 世界各国から集まった同僚たちは話題豊富でオープンマインドな人ばかり。話題はおすすめの旅行先から世界情勢まで多岐に渡ります。クルーにとっては健康管理も仕事もうちなので美容と健康についてシェアする人もいれば、出会った数時間後にもかかわらず恋愛相談をされることもあります。

 サービスの後の空き時間にはジャンプシートと呼ばれる離着陸時の乗務員専用の座席に座ってコーヒーや紅茶を片手にお喋りすることが多いです。立ったままのクルーに「一緒に座ろう」と自分の座っているジャンプシートの半分を空けてあげるのも外資系ならではの光景だと思います。

 とあるフライトで、ネパール人男性クルーとタイ人女性クルーとサービス後に話していた時にこんな質問をされました。

「日本はどうしてそんなにパーフェクトな国なの?」

 海外の人たちからすると日本は全てが整っていて、きちんとした国に見えるようです。こうして褒めてもらうと本当に嬉しいのですが「ありがとう。でも日本にも悪いところや足りないところがあるよ」と答えると、今度は、こんな質問が。

「じゃあ自分の国に関して一つだけ変えることができるとしたら何を変えたい?」

 まるでミス・ユニバース世界大会の質疑応答コーナーのような鋭い問いに、考えさせられました!

 このような心事高尚な質問が飛んでくるのも、様々な事柄についてあらゆる視点で議論できるのも、多国籍な環境で働いている醍醐味でしょう。

つねに「日本の代表」…自国について学ぶ重要性

 国際的な環境で働くには語学力は必須です。中東に住んでいるとは言えアラビア語ができない人たちもたくさんいるので、英語さえできればコミュニケーションには困りません。またその大多数が英語が第一言語でない人たちです。機内でも英語が苦手なお客様と接することも多々あるため、私たちはシンプルでわかりやすい英語を話すように心掛けています。

 またトレーニングではいくつかの世界の文化についても勉強します。機内ではアラビアのお客様や食べ物に接する機会が多いのでアラビア文化についてはもちろん、日本文化についても触れられます。日本便では和食や日本茶を提供しているので、盛り付けの仕方やサービスの仕方なども学びます。

 トレーニングのクラスでは大抵の場合、日本人は自分一人です。日本文化や習慣などについてインストラクターから説明を求められることもあります。それは機内でも同じことです。

以前、日本に向かう機内でスペイン人の機長から「明日は日曜日だけどお店は開いているの?」と尋ねられたことがありました。ヨーロッパ人の感覚だと、キリスト教の安息日である日曜日はあらゆるお店がお休みなのです。

 またクルーから機内食のお麩やこんにゃくについて尋ねられたこともありました。日本の習慣や食べ物についてきちんと説明できるよう勉強することも大事だと気付かされました。

 このように多国籍な環境で働いていると「自分が日本の代表として見られている」と自覚することも多いのです。

刺激の絶えないフライト生活

 いかがでしたか?

 様々なバックグラウンドを持った人たちと世界中を飛び回る生活はとても刺激的です。これからも出会いを大切に学ぶ姿勢を忘れず、そこで得た知識や経験を仕事や人生に落とし込んでいけたらと思います。

早稲田大学卒業後、日本で金融機関に就職するも語学を活かした仕事を諦めることができずエアラインの道へ。大学時代には一年間のフランス留学を経験。現在、中東系航空会社にて乗務10年目。趣味は旅行、写真、ワイン、カフェ巡り。

【CAのここだけの話】はAirSol(エアソル)に登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。アーカイブはこちら