最強のコミュニケーション術

「同調圧力」で説明しきれない 善意によるワクチンハラスメントの“正体”

藤田尚弓

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第31回は「ワクチンハラスメントへの対処法」がテーマです。「ワクチンを打たないなんて、とんでもない」「あんなものは絶対に打ってはいけない」など、ワクチン接種に対する考え方を押しつけるハラスメントが話題になっています。

 コロナ時代での振る舞い方やワクチン接種の有無など、意見が違う人との関係が悪くなるケースも増えています。悪気がなく、むしろ「教えてあげなければ」という善意のハラスメントをされた場合、どう返せばいいのか。具体的な対処法をご紹介します。

インターネットの功罪1 正しいと思い込む「フィルターバブル」

 まだわからないことも多い新型コロナウイルスやワクチン。私たちは日々インターネットやニュースなどから情報を得ており、これらが意見や判断を構築するときに大きな影響を与えています。触れる情報が、全員が同じではないというのは皆さんご存知のとおりです。

 それに加え、インターネットでは、これまでの閲覧傾向に合わせて情報が提示されるので、更に情報に偏りが生じやすくなります。 自分の好みに最適化された見たい情報だけに触れている状況のことを、泡に包まれていることに例えて「フィルターバブル」と言います。フィルターバブルに包まれている状態では、反対意見に触れる機会は激減します。そもそも私たち人間には、自分の意見と同じものが目に入りやすく、違う意見に触れても軽んじやすいという特性があります。他の人から反対意見を聞いても、理解しようとする気持ちにはなりにくいのです。

 フィルターバブルのやっかいなのは、自分は正しい情報にアクセスしていて、他の意見の人が「情報を知らない人」に見えることです。「事実を知ればわかるはず」という思いで、有識者(のように見える人を含む)の発信や、自分の意見に都合のいいデータなどを見せようとするのはこのためです。

 しかし、自分とは違う考え方を押しつけられるというのは、気分のよいものではないので、強い主張をされればされるほど、拒否反応が出てしまいます。「あの人とは付き合うのを控えよう」と思ったことのある人もいるのではないでしょうか。

 強い主張をしてくる人が正しいと信じていること、例えば「ワクチンは打ってはいけない」や「ワクチンを打たない人は差別されてもしかたがない」といった信念は、フィルターバブルによって構築されている可能性があります。これは情報化社会に誰もが陥る可能性があることです。罪を憎んで人を憎まずではありませんが「主張がおかしいから」と、つきあいをやめるといった短絡的な考え方は、できるだけ避けたいものです。自分が正しいと信じていることもまた、フィルターバブルによって構築された可能性があることを忘れてほしくないのです。

 では、強い主張をしてくる人にはどのように接すればいいのでしょうか。信念を作っている情報に偏りがあるという事実を指摘したところで、彼らが主張を考え直すことは期待できません。強い主張をしてくる人は、自分と同じような意見を繰り返し見聞きすることで、確信を深めている可能性が高いからです。

インターネットの功罪2 確信を深める「エコーチェンバー現象」とは

 「エコーチェンバー」とは音楽などの録音を行う「反響室」が語源です。自分と同じ意見の人がいる狭いコミュニティでは、音が反響するように、似たような意見が返ってくる傾向があります。何度も似たような意見に触れていると、それを正しいと思う気持ちが強化されます。SNSなどで自分と似た興味関心のある人をフォローすると、自分の発信には似た意見が返ってくるため、例えば「ワクチンにはマイクロチップが入れられている」といった説も信じる人が出てくるのです。

 アメリカ大統領選挙の後、「バイデン氏の不正が暴かれトランプ氏が復活するXデーが来る」といった説を主張していた人々がいました。何度もXデーが延期されたのち、彼らが主張しているようなことは起きなかったわけですが、そのような経験をしても「自分は間違っていた」「デマを広めてしまった」といった、省みる行為はしていないようです。

 コロナワクチンに関しても「打ったら2年以内に死ぬ」といった過激な説を主張している人もいるようですが、2年を過ぎて何も起らなかった場合にでさえ、言動を省みないということが予想されます。間違いだとわかったときでさえそうなのですから、まだわかっていない段階で人から反論されても考えを変えるのは難しいと思われます。

 「信じやすく、忘れやすい、間違いも省みない」という人たちとは、正論でやり合うよりも波風が立たない対処で自分の心を守る方がいいかも知れません。

ワクチンハラスメント!? 違う意見を押しつけられたときの対処法

 ワクチン接種に限らず、正しいと思うがゆえに、親切心から意見を押しつけられるということは少なくありません。気合いで何とかなるという仕事論、昔ながらの子育て論、男はこうあるべき女はこうあるべきというジェンダー論などなど、悪気のない押しつけに困ってしまった経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。

 親子や夫婦など親しい相手でしたら「しっかり話し合う」という選択肢もありますが、そうでもない相手の場合、どうかわせばいいのでしょうか。波風を立てたくない相手への対処ポイントは、以下の3点です。

1.相手の意見は否定せずに最後まで聞く

 自分が正しいと信じていることを、親切で教えてあげようという気持ちの人が多いと想定しておきましょう。途中で話しを遮ったり、否定したりすると、感情を害してしまいます。不快なのは「主張」であって、話しているその人ではありません。話は穏やかに最後まで聞くのがよいでしょう。批判的な気持ちになったときには、自分にもフィルターバブルやエコーチェンバー現象が影響していると考えましょう。

2.同調や肯定にならない相槌を使う

 トラブルを避けたいばかりに同調してしまうと、後が大変ですし、職場の人たちへの影響も心配です。話を聞いていること、理解したことは伝えたいですが、同調や肯定にならない相槌を選んで使いましょう。

《例》

「なるほど、そういう説があるんですね」

「いろんな考え方があるんですね」

「私の知らない情報でした」など

3.違う意見を言うときには正しさの主張は控えめに

 自分は違う意見であり、議論したくないという場合には、自分の意見を相手に言わなくてもOKです。相手から訊かれたときなど、意見を言わなければいけないときには、正しさを主張し過ぎないように伝えましょう。テクニックとして、意見の前に「個人的には」をつけるのがお勧めです。あくまで個人の意見であるということが伝わるため、相手が否定されたような気持ちになりにくいです。

 この3つの対処法はワクチン接種だけでなく、コロナ禍での外食や旅行など、考え方が違う人と対立しそうなあらゆるシーンに使えるので覚えておくと便利です。

相手はどっち派?「ワクチン打った?」と訊かれたときの答え方

 ワクチンを打ちたくないという人の中には「接種したか訊かれた場合に、どう回答していいかわからない」と悩む人もいるそうです。

 相手がワクチンを打つべきだと考えているのか、それとも打たないべきだと考えているかわからない場合、「ワクチン打った?」という質問にはどう答えればよいのでしょうか。もちろん相手との関係性によっては正直に答えるのもアリですが、そうでもない相手であり波風を立てたくないのであれば、以下のフレーズを使ってみてはどうでしょうか。

《お勧めフレーズ》

「打ちたいんですけどね…」

 この語尾を使うことによって「打ちたいけれど打てない」というニュアンスも伝わりますし、まだ打っていない状況に何らかの理由があるように聞こえます。「接種しないでフリーライドなんてとんでもない」と考えている人でも、この答え方であればトラブルになりにくいでしょう。

無意識なハラスメントに気をつけよう

 日常でも意見の対立はあります。新型コロナウイルスが登場してから、特に対立や分断が目につくようになりました。押しつけられたときは、嫌な気持ちになると思いますが、発言者を嫌ってしまいそうになったときには、フィルターバブルやエコーチェンバーを思い出して、誰でも陥りやすいことなのだと考えてみてください。

 もしかすると皆さんの方が親切心から「正しいことを教えてあげたい」と思うこともあると思います。そんなときには、自分が思い込みをしている可能性を思い出し、ハラスメントにならないよう気をつけてみてください。悪気なく人を不快にしてしまうという発言は思いのほか多く、自分では気づきにくいという特徴があります。正しいと信じていることも、間違いかも知れない。そんな気持ちを心のどこかで持っておくことが優しい社会を作るために必要だと感じます。

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら