働き方ラボ

会社の“菅義偉部長”を考える 「伝わらない」コミュニケーションが持つリスク

常見陽平

 理解できなかった。菅義偉首相が自民党総裁選に不出馬を表明した3日、首相と官邸で面会した小泉進次郎環境相が、後のぶら下がり取材で涙を流したのだ。「首相が1年間やってきたことが新型コロナウイルスに対する批判一色で染まり、前向きな実績も覆い隠された。1年でこんなに結果を出した首相はいない」と語りつつ、である。

 とにかく「伝える」ことが下手だった菅政権

 なぜ、そこで泣くのか。「こんなに仕事をした」「結果をだした」と言われても、一国民として実感できないのはなぜだろう? まるでマイクアピールで滑ってしまったプロレスラーのように思えた。

 もちろん、あとから振り返ると分からなくはない。小泉氏は、菅首相に不出馬も選択肢だと伝えたとされている。一部では「菅さんでは勝てない」と不安に思った若手議員が小泉氏に進言を依頼したとも言われている。また「こんなに仕事をした」「結果をだした」というのは「脱炭素」など環境関連のことのようだ。自身が支えきれなかったことの未練もあるのかもしれない。

 しかし、菅首相の退陣にしても、小泉氏の涙にしても、国民としては白けてしまう。要するにこれは、「伝わらない」コミュニケーションなのだ。もっと言うと、伝えようともしていないかもしれない。

 菅政権の総括が各メディアで行われている。私は「コミュニケーションに難あり政権」と呼びたい。とにかく、コミュニケーションに問題があった。会見を開かない、質問に答えない、国民に届く言葉で語らない。説明しない政治、人の話をきかない政治。少なくとも、そのような印象を与えてしまったのではないか。

 たしかに、短期間の割には「仕事をした」のかもしれない。デジタル庁、脱炭素、妊活支援など新たな取り組みをした。コロナ対応に対する批判は常にあったものの、ワクチン接種も推進した。東京五輪・パラリンピックも無観客でやりきった。もちろん、道半ばのものもあるし、取り組みに賛否はあったが、冷静に振り返ると取り組んだことがないわけではない。

 ただ、短期間だったとはいえ、菅首相および政権について、よくわからず不信感が渦巻き、最終的に支持率が低迷したのは、これらの取り組みの「伝え方」が下手だったからではないか。

 小泉氏や西村康稔経済再生担当相をはじめ、周りの人々も彼の考えを上手く通訳・翻訳できていなかったのも問題だった。五輪開催について「人類がコロナに打ち勝った証」と言いつつも、振り返れば「Go To」をはじめ逆に感染拡大につながってしまうのではと疑問を持たざるを得ない政策もあった。さらには、自身も含む政治家たちの会食疑惑も、不満の連鎖を生んでしまった。「コミュニケーションに難あり政権」そのものだ。

 あなたの職場に“菅義偉部長”はいないか?

 こうした我が国における「大問題」が、あなたの会社では発生していないだろうか。今度は自分たちの職場について考えてみよう。あなたが所属する組織に、菅首相のような部長、小泉氏のような課長はいないだろうか。つまり、言っていることがよくわからない聞いていることに答えない部長と、その想いを伝えようとするのだが、上滑りしてうまく伝わらず笑いのネタにされるような課長である。仕事でやりとりをする管理職がこの2人のようだと、日々の業務で混乱が生じるのである。それは社内のコミュニケーションで困るだけでなく、顧客や取引先に迷惑をかけることにもなりうるのだ。

 菅首相的な部長は、まさに「同質化社会」が生んできたと言っても過言ではない。同じような属性の集団でやってきた環境では、コミュニケーションが多少下手でも、説明をせずとも伝わる“空気”があり、上意下達で現場はまわったのだろう。しかし、働く人も多様になっている上に、不確実なことが日常的に発生する今どきの会社と社会では迷惑なのである。何より、確実に仕事をやっていたとしても、伝わらなくては意味がない。

 小泉氏的な課長も、本来であれば経営と現場をつなぐ仕事をしなくてはならない。しかし、両者の架け橋としての仕事をまっとうできず、発言は上滑りし、気づけば失笑の対象とされているのである。

 説明下手な上司のトリセツ

 我々ビジネスパーソンは、自身が彼らのようにならないように気をつけつつ、いざこの手の管理職のもとで働くことになった場合、どのように対処するかを考えなくてはならない。常に「これは相手に伝わるだろうか」「相手が見たらどう思うか」と、相手の立場に立つ姿勢が必要であることは言うまでもない。そして、この手の管理職にぶち当たったら、ツッコミ続けなくてはならない。感じが悪いと思われない程度に、「よく分からないのですが」「具体的にはどういうことでしょうか」とツッコミを入れ続けるのだ。他の管理職を焚き付けて、ブレーキ役にするのも手である。会見打ち切りばりに、コミュニケーションを中断されてしまうと、もう絶句するだけなのだが。

 菅首相は、まるで総務部長が諸事情で社長になったような印象だった。最後まで首相になりきれたのか、よくわかなかった。小泉氏も菅首相の片腕には見えなかった。私たちは、日本がよりよくなることを祈りつつ、彼らをうまく反面教師にする必要がある。この機会に彼らから学んではいけないことを確認し、職場に活かしていこう。パンケーキを食べつつ、考えよう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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