5時から作家塾

1on1ミーティングに潜む「落とし穴」を防げ! AIが示す客観的評価

吉田由紀子

 「部下が積極的に発言しない」

 「部下の考えていることが分からない」

 「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」

 こんな経験をお持ちの方はいらっしゃるだろうか。テレワークが当たり前になった今、チームマネジメントに悩む管理職が増えている。

 以前は会社で顔を合わせて会話すれば、相手の状況を把握することができた。しかしテレワークが主流になって雑談の機会がなくなり、オンラインでは必要なことしか話さなくなった。そのため、コミュニケーションが不足気味になっている状態だ。

 こうした状況を背景に、活用されているのが「1on1ミーティング」。これは、上司と部下が1対1で対話し、部下育成や課題解決に導くための手法である。導入する企業が急速に増えているが、そこには大きな「落とし穴」があると専門家は警鐘を鳴らす。

 「1on1ミーティングにて考慮すべきポイントを押さえていない企業が多いのです。そのため、せっかく導入してもメリットを感じられず、社員から拒否される企業が増えています。ミーティングを辞めるケースも少なくありません。1on1は正しく行えば、社員の成長を促進する強力な武器になるのですが‥‥」

 こう話すのは、EDGE株式会社代表の佐原資寛さん。同社は人事や組織の課題解決に特化したシステムを開発しており、現在600社が利用している。1on1を有効に使って欲しいと考え、今年、独自のシステムをリリース。それは、人工知能によりミーティングを解析する画期的なシステムである。

 ただただ苦痛な時間に…

 「以前、ある企業の1on1音声を特別に聞かせてもらった事ことがあリます。上司が自分のやり方に自信を持っているようで、一方的に話を進めていました。押し付けがましい印象を受け、部下が明らかに納得できていない様子であっても、どんどん話が前に進んでいました。この状態を続ければ、互いにすれ違ったままで終わり、せっかくの1on1が、ただただ苦痛な時間になるだろうと感じました」(佐原さん、以下同)

 こうした「間違ったやり方」を解決したいと、同社が開発したのが、「エアリーフィードバッククラウド」というシステムである。

 簡単に言うと、AIが対話音声を解析し、「客観評価をする」システムである。1on1では秘匿性の高い内容を扱うので、第三者が客観的な評価を下すことが難しい。さらに、上司と部下のパワーバランスもあり、部下側から指摘することは至難の技である。また、上司にとっては部下から反論されないからとバイアスがかかり部下に寄り添えないケースも多い。しかしAIならば、私情を持ち込まずに客観的に解析することが可能である。客観性のある解析結果により上司は自身のやり方を見つめ直し、1on1の質を高めるのと同時に、人事部門や経営層は上司・部下の関係性から組織の状態を網羅的に把握することができる。

 具体的な方法はこうだ。AIがミーティングの音声(周波)を解析し、双方の発話割合や感情などを可視化していく。

 「エアリーフィードバッククラウドは、音声解析により、1on1を理想的な状態に近づけるサービスです。例えば、上司の発話が8割を占めていると、一方的な対話だと判断します。さらに、対話中の落ち着き、怒り、喜び、悲しみといった感情もグラフ化されるので、相手がどんな気持ちなのかを客観的に把握することが可能です。共感性、傾聴力、安心度といった要素を分析し、心理的安全性スコアも知ることができます。このスコアから相手との対話が成立しており部下育成に寄与できる1on1を実施できているのかを客観的に知ることができます」

 大手からベンチャーまで、バブル状態でも正しく運用で成果に

 コロナ禍の今、このシステムを導入する企業は増えている。

 大手機械メーカーでは、以前から1on1を実施しているが、部下の評判が悪く上司も面倒臭がって積極的に行っていない状態だった。

 「どこに原因があるのか知りたいと相談されました。他社のシステムも検討した結果、客観的な解析できるとの理由で当社を選んでいただきました。導入後、音声データを解析したところ、何も話さない上司が多く、相槌を打つだけというケースが目立ったのです。また、怒りの感情が高く出ているケースもありました。まずは一人ひとりの上司の状況に合わせて意識するべき点や課題を抽出し、改善していくことを提案しました」

 また、コンサルティング会社では、1on1を導入したものの、あまり活用されないままになっていた。仕事柄、上司が部下を論破してしまうケースが多く、次第にミーティング自体が形骸化してしまった。

 「こちらの企業には、対話の最後に10分間の振り返り時間を設けることを提案しました。対話を可視化したグラフを見ながら、少しずつ振り返りの習慣をつけていく。こういう共同作業により、改善につながっていきました」

 さらに、設立間もないITベンチャー企業でも活用されている。

 「社員15名のスタートアップですので、退職者が出てしまうと業務に大きな支障が出てしまいます。そこで1on1ミーティングを始めたいと相談を受けました。技術職の場合、優秀なプレーヤーが管理職になるケースが多いのですが、十分なマネジメントができずに組織づくりに悩むといったケースも見受けられます。そのため、管理職への研修なども含めて全面的なサポートを行っています」

 EDGE社は、システムを提供するだけではなく、導入後も研修やコンサルティングを頻繁に行い、企業に寄り添った支援をするのが、特長となっている。

 「1on1のサポートに限らずHRテックを導入する企業が急速に増え、今やバブル状態になっていると感じています。その結果、成果につながらない使い方や必ずしも社員が幸せにならない使い方が続出しています。しかし、ポイントを押さえ正しく運用すれば人事戦略を企業の経営戦略にまでつなげることができる、高い可能性を秘めているのです」(吉田由紀子/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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