最強のコミュニケーション術

脱フィーリング上司! 「言語化」能力を鍛えてオンライン時代のストレス減

藤田尚弓

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第33回は「言語化」がテーマです。感覚的に掴んでいることを、相手にわかりやすく伝える技術が、ビジネスにおいて強力な武器になるのは皆さんご存知のとおりです。しかし、言語化する際のコツや言語化のデメリットについては、あまり考えたことがないという人も多いのではないでしょうか。リモートワークやオンライン商談などが増えてきた今、ビジネスの攻めと守りに必要な言語化のコツをご紹介します。

リモートワーク時代に特に意識したい「2つの言語化」とは

 リモートワーク時代に意識したいことの1つめは「暗黙知の言語化」です。新型コロナウイルス登場前は、会社に行き、顔を合わせて仕事をするスタイルだったので、職場の文化や暗黙知は、あえて伝えなくても雰囲気や周囲の反応から学んでもらえる環境でした。

 しかし、リモートワークが増えたことで、周りの人の動きを見ながら学ぶ機会は減少傾向にあります。またマスク着用がスタンダードになったことで、表情から反応を見て学ぶ機会も減りました。ベテランにとってはこれまでと大差はないかも知れませんが、新人にとっては暗黙知を身に着けにくい時代と言えるでしょう。

 中堅の人でも、期待する成果や仕事内容を感覚だけで伝えるタイプの上司に当たると、成果を出すのが難しい環境と言えます。指示や教え方が曖昧な「フィーリング上司」は、感覚が合う人の場合や長年一緒に仕事をしている人ならやりやすいのですが、そうでない場合には期待されていることがわからず苦労します。オンラインではこの傾向が強くなるので、言語化は更に重要です。

 暗黙知を言語化するときのコツは、期待することを数字と具体例を使って伝えることです。

《例》

「オンタイムに開始するのではなく、準備をして臨んでください。例えば、オンライン会議では、事前に送った資料に目を通して5分前には入室お願いします」

 運悪く、フィーリング上司に当たってしまった人は、質問をして理解不足を補うことが大切です。このとき「具体的にどのくらいですか?」という聞き方をしてしまうと、上司が不快に感じることがありますので「理解を確認する」というスタンスで質問するのがよいでしょう。このときも数字を使うと共有しやすくなります。

《例》

「訪問数を増やすというアドバイスありがとうございます。具体的に月20件ほど増やせばいいのかと思ったのですが、この理解であっていますでしょうか」

 2つめに意識したい言語化は「相手への配慮」です。「注意したことが否定に聞こえてしまう」「断ったことが、軽んじているように感じられてしまう」「依頼が、無理を強いているようにとられてしまう」など、立場上伝えなければいけないことが、ネガティブに受け止められてしまうこともあります。

 直接会っている場合には、表情や声のトーン、その後の振舞い(例:ランチに誘うなど)で悪気がないことが伝わることも少なくありません。しかしオンラインの場合は、生じてしまった誤解が打ち消される機会はそう多くありません。相手への配慮は、言葉にしてしっかり伝えていくようにしましょう。

《例》

「××でお忙しいところだと思いますが、大事な仕事なのでこの分野に詳しい〇〇さんにお願いしたくて。思い切って声をかけさせてもらいました」

 日本人は特に「わかってくれるだろう」という察しの文化が強く、言葉足らずな傾向にあります。在宅勤務ではリカバリーの機会が少なくなると考えて、配慮は意識して言葉にしていきましょう。

ネーミングのメリットとデメリット

 「ネーミング」も言語化テクニックのひとつです。ネーミングというと「プレゼンや提案などでも、ピタリとハマる言語化をして勝った」というような、攻めのテクニックのように感じる人もいるかも知れません。しかし普段の業務でもネーミングは威力を発揮してくれます。

 抵抗なくスっと入ってきて、楽に理解できることを認知心理学では「処理流暢性」と言います。処理流暢性は判断や評価に影響を与えることが明らかになっています。理解が難しいことよりも、楽に理解できるほうが真実だと評価されるという研究もあります(*1)。コマーシャルなどで何度も見せられると好感度が上がってしまう「単純接触効果」も、処理が楽になることでもたらされる効果の一つだと言われています。逆に、わかりにくいものは、好きになれないといった経験をしたことが、皆さんも一度はあるのではないでしょうか。

 複雑でわかりにくい概念も、それを象徴する短い言葉、いわゆるネーミングによって身近に感じさせることができます。具体例としては、世界的ホテルブランドのザ・リッツ・カールトンがサービスの在り方や社員の言動を「クレド」として浸透させたケース、トヨタ自動車が、問題解決をするときに現場・現物・現実を反映して考えるということを「三現主義」として浸透させたケースなどがわかりやすいでしょうか。

 もちろんネーミングにもデメリットがあります。以前、タレントの北野武さんがテレビ番組で「ストーカー」というネーミングに言及していたことがあります。北野さんの主張は「ストーカーなんて、カッコイイ呼び名にしちゃうから、悪いやつらが増えてしまう。むしろ恥ずかしい呼び名にすれば、犯罪は減るのでは」というものでした。いい意味でも、悪い意味でも、言葉を作ることで事象の存在が認められるのだなと感じたコメントでした。

 最近「親ガチャ」という言葉がよく聞かれます。これによって所得格差や教育格差が浮き彫りになった気がします。残念なのは「親ガチャに外れた」というのが言い訳や諦めに使われるケースも出てきていることです。ジェンダー問題への蔑称など、ネーミングは、思っているよりも相手を傷つけてしまうこともあります。部下に対してネガティブなあだ名をつけることや、失敗を揶揄するようなネーミングは、自分で思うよりも罪深いことだと認識し、十分配慮するようにしたいものです。

言語化のプロセスとポイント

▼箇条書きで細かく

 言語化するためには、まず思考の整理が必要です。自分が頭の中でわかっていることを、箇条書きでいいので書き出してみることから始めましょう。この段階では、表現方法は考えなくてよいので、質より量で細かく出していくのがお勧めです。書き出す作業が終わってから、伝えたい相手の理解度に合わせて、表現する言葉と具体例を選んでいきます。

▼ネーミングは「説明系」か「イメージ系」

 場合によっては短くわかりやすく伝えることができる大事なエッセンスを抽出します。ネーミングに挑戦したい場合、初心者であれば「説明系」か「イメージ系」のどちらかで考えてみるとスタートしやすいと思います。説明系であれば「熱さまシート」「ガスピタン」など小林製薬の商品名、イメージ系であれば「スカイライン」「アルファード」など車の名前を参考にしてみてください。

▼数字で相対化

 先ほど、数字を使うという話をしましたが、数字も相手にわかりやすく伝えるよう意識するのが大切です。例えば、OECD(経済協力開発機構)によると、日本の平均睡眠時間は7時間42分ですが、これだけでは長いのか、短いのか、わかりにくいと思います。そこで他の国の数字と比較してみます。

  • アメリカ 8時間48分 
  • イギリス 8時間28分
  • フランス 8時間50分
  • 中国   9時間02分
  • 韓国   7時間51分(出典/OECD2019)

 こうしてみると、睡眠が短いのか長いのかイメージしやすくなります。

 相手にわかりやすいよう、意識して言葉にしていく作業は、思考力や要約力を鍛えてくれますので、必ず自分の力になっていくものです。「このくらい、言わなくでも理解しろよ」という気持ちがあるかも知れませんが、自分のためにもぜひ取り入れてみてください。

参考文献

(*1)Reber, R., & Schwarz, N. (1999). Effects of perceptual fluency on judgments of truth. Consciousness and cognition, 8(3), 338-342.

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「いい人間関係は敬語のくずし方で決まる」(青春出版社)「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら