CAのここだけの話

CAは何歳まで乗務できるのか? 73歳で空の仕事をこなす大先輩

鶴﨑八千代

 SankeiBiz読者のみなさんにだけ客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第116回は欧州系航空会社乗務16年目の鶴﨑八千代がお送りいたします。

フランス系航空会社で日本人として働く鶴﨑八千代さん(右)。写真は、フランスのパリ1区にあるパレ・ロワイヤル(王宮)の前で撮影。1643年に当時5歳のルイ14世がルーヴル宮殿から移り住んだという歴史的建造物。提供:本人
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 現在、日本の一般企業の定年は65歳です。これは2013年に、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」により60歳から引き上げられたためです。ではエアライン業界、とくに客室乗務員は何歳まで働くことができると思いますか?

 客室乗務員という仕事は勤務時間も不規則で家を空けることも多くあります。多くの女性にとって客室乗務員は、子育てと両立するのさえ難しい仕事かもしれません。

 ただ最近では、さまざまな職種で働き方が見直されるようになってきました。エアライン業界においても、CAママとして乗務するワーキングマザーが当たり前になってきました。特に外資系エアライン、なかでも欧州系のエアラインでは、CAママが子育てをしながら働きやすい労働条件を提供しており、私のように継続年数の長いCAが多い印象です。

 勤続年数が長い人が多い欧州系エアラインでは、アラフィフの私より上の世代の方でも、定年まで勤め上げる素敵な先輩も多いです。今回は「CAの定年は何歳? 乗務っていつまでできるの?」そんなテーマで書いてみたいと思います。

1998年、25歳で受けた衝撃!

 不況の影響でリストラに遭いながらも、再就職で私がエアライン業界に足を踏み入れたのが1998年、25歳のときでした。職を失い、当初は途方に暮れていましたが、4000人応募の難関に突破して、米ノースウェスト航空(現デルタ航空)に、機内通訳として採用されたのです。人生のどん底から、毎週のように太平洋路線、ニューヨーク、ハワイなどを往復する夢のような生活が始まりました。

 当時乗務した国際線での出会いが忘れられません。そのフライトは国際路線ということで、同乗したアメリカ人の客室乗務員はキャリアの長い、年を重ねた方だったのですが、彼はなんと70代!

 同僚から「ボブじいさん」の愛称で呼ばれ、社内の有名人だったボブさん。たしか73歳くらいだったと記憶しています。社内最年長でした。25歳の私は、高齢で乗務していらっしゃる大先輩の存在に驚き、その衝撃を20年以上経過した今でも覚えています。

会社や国により「定年」がこんなに違う

▼定年制自体が「差別」?

 私たち日本人にとっては定年制は当たり前ですが、アメリカ系エアラインでは、「定年」というような年齢制限がありません。

 差別に対して敏感なアメリカでは、雇用における年齢制限禁止法で 、40歳以上の個人に対する、または年齢を理由とする「雇用に関する差別」が禁止されているのです。

 毎年の健康診断、また保安要員の試験に合格すれば、若い世代と同様に乗務を継続しても問題はないということです。「年齢を理由にどうして辞めないといけないのか?」ということでしょうか。

▼日本は「30歳」だった

 調べてみると、ある日系エアラインでは1977年まで、「30歳」が定年だったという驚きの事実があります。その後は「40歳」に引き上げられ、1979年には「60歳」まで乗務が可能になったようです。

 冒頭で触れたとおり、日本の一般企業の定年は現在65歳。一方、航空会社の場合、同じ日本であっても、乗務員に関しては60歳を超えると地上勤務になる会社もあるようです。

▼海外ベース / 日本ベースで異なる

 私のように、外資系エアライン勤務かつ海外ベース(居住)だと、その国の法律が適応されています。外資系エライン勤務でも、日本ベースで乗務しているCAは、日本の法律が適応されるようです。会社により定年の年齢も色々ですね。

フランス系エアラインの定年は何歳? 「延長願い」とは?

 私が働いているフランス系エアラインでは、以前は、57歳の誕生日になる前に退職をしなければいけませんでした。現在は、日本の一般企業の定年と同じく、65歳まで乗務できます。ただし57歳以降は毎年、乗務継続をするかどうかの意思を「延長願い」として会社に提出しなければいけません。

 フランス人には、「歳を重ねても働きたい!」というよりは「早く定年して毎日バカンスのように過ごしたい!」という人が多い印象です。55歳前後のフランス人同僚に話を聞くと、「まだ子供の学費の支払いがあるから」「まだ年金が満額ではないから」など、定年退職には家庭のお財布事情が大きく影響していることが伺えます。

 もちろん、家庭の経済状況、年金の額に関係なく、「やりがいを求めて!」歳を重ねても働きたい人もいますがかなり少数派のようです。65歳まで乗務できますが、実際にその年齢まで乗務する人は、日本人の先輩、そしてフランス人でもかなり稀です。

 アメリカ、ヨーロッパ、日本、それぞれの客室乗務員の定年の年齢をみてきましたが、リタイアには国民性、年金制度、法律なども大きく影響しているようです。

「いつまで乗務できるか?」は会社の決まりもありますし、「いつまで乗務したいか?」は個人の想いです。アメリカのように年齢差別を受けず、個人の状況により、乗務生活にいつ終止符を打つか自分で選べるのが理想だなと私は思います。

70代の日本人客室乗務員も存在する日がくる?

 日本では2021 年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの雇用確保が努力義務化されました。

 空の世界、つまり客室乗務員の仕事は時差もありますし、高齢者が働くにはハードな環境ではあります。しかし今、「70代定年」が現実味を帯びてきたわけです。

 20年前に私が70代の「ボブじいさん」と機内で働いたように、日本人乗務員のあいだで大先輩と働くことが当たり前になる日も、そんなに遠くないかもしれません。

フランス在住17年。OL経験後、アメリカ系航空会社にて機内通訳として6年乗務。「パリでの就職」の夢を果たすため31歳で単身渡仏、パリで就活後、5つ星ホテルに就職、その後、フランス系航空会社に転職、現在乗務歴16年。「世界を飛ぶパラレルキャリア乗務員」としてNPO団体パラレルキャリア推進委員会の広報PR活動にも従事。エアライン就活生をサポートする「Ciel Online Salon運営メンバー」、「ママ夢ラジオ」インタビューアーとしても活動中。13歳・9歳、二人の子育てしながらパラキャリ奮闘中!趣味:ブログ・乗馬・家庭菜園 Instagram:@yachi.ca/@ciel.2019

【CAのここだけの話】はAirSol(エアソル)に登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。アーカイブはこちら