視点

脱「官製」春闘 「闘争」維持し、対立から協調へ (1/2ページ)

 2019年春闘交渉が本格化している。3月半ばには経営側の集中回答日を迎えるが、今春闘は「脱官製」がキーワードになった。「官製春闘」とは何だったのか、19年春闘はなぜ「脱官製」なのか。雇用のあり方が変わり、景気の不透明感が強まる中、春闘はどこへ向かうのだろうか-。(フジサンケイビジネスアイ編集委員・大塚昌吾)

 5年前の14年春闘は、13年9月に政労使会議の初会合が開かれ、安倍晋三首相が経済界に賃上げを要請した。12年12月に誕生した第2次安倍政権が実質的に関わった最初の春闘で、賃上げの決定プロセスに政府が介入したことから「官製春闘」との呼び名がつき、「官製」はその後、18年春闘まで続いた。

 昨年5月末に就任し、経団連トップとして初の春闘に臨んだ中西宏明会長は「賃上げは経営陣と組合、従業員が真剣に話し合って個社ごとに決めていく折衝事項で、政府に言われてやるものではない」、連合の神津里季生会長も「首相が言ったからでなく、13、14年に開かれた政労使会議で現在の経済状況に対する認識を一致させた結果」として、メディアが「官製春闘」と呼ぶことを批判する。

 今春闘では、昨年12月26日の経団連の審議員会と、今年1月7日の経済3団体の新年祝賀パーティーの席上の2回、安倍首相が経済界に賃上げを要請した。ただ、18年春闘で、「3%が実現するよう期待したい」と数値目標を示したのと比べ、大きくトーンダウンした。数値目標のない賃上げ要請は、前々年の17年春闘と同じだが、経団連が1月22日に発表した春闘指針の「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」からは、首相による賃上げ要請のくだりが一切消え、「そもそも賃上げは、政府に要請されて行うものではない」とする文言まで書き込まれた。

 なぜ数値目標が示されなかったかについては、いくつか見方がある。

 中西氏が定例会見などの場で、自ら賃上げの必要性に言及していたこと。また、周囲に「数値目標はない」(中西氏)と語っていた見立ての背景には、日本のインフラ輸出を担い、成長戦略に不可欠なデジタル革新の牽引(けんいん)役である日立製作所会長として、安倍政権との距離感に自信があったとの評価もある。政府側の理由として、10月の消費税増税や景気不安を抱え、「強気の目標を設定できなかった」(金融市場関係者)との観測もある。

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