コリアタウン30年見つめた日本人写真家、写真集「民族の風」刊行

衣類の露店が並ぶ大阪市生野区の御幸橋=「民族の風」収録、1987年藤本巧さん撮影
衣類の露店が並ぶ大阪市生野区の御幸橋=「民族の風」収録、1987年藤本巧さん撮影【拡大】

  • 大阪市生野区の各小学校を会場として在日韓国・朝鮮人が集まった生野民族文化祭=「民族の風収録」1990年藤本巧さん撮影
  • 大阪市生野区で開かれていた生野民族文化祭の農楽隊パレード=「民族の風」収録、1988年藤本巧さん撮影

 韓国をテーマに撮影活動を続ける日本人写真家、藤本巧さん(69)=奈良県生駒市=が、在日韓国・朝鮮人が多く住む大阪のコリアタウンの30年の変遷をまとめた写真集「民族の風1987-2018」を刊行した。近代化によって韓国ではみられなくなった祭りや婚礼などの伝統、風習を、コリアタウンに移り住んだ在日1世、2世の日常に見いだし、レンズを向けた。現在、日韓関係が厳しい状況にあるが、藤本さんは「時代に左右されず、記録を残したい」と話している。(石川有紀)

 写真集には大阪市生野区で平成14年まで開かれていた「生野民族文化祭」の様子が数多く収められている。朝鮮半島の伝統芸能、農楽(のうがく)の衣装をまとった少年少女が手持ち太鼓をリズミカルに打ち鳴らし、帽子についた長いひもを宙に舞わせて飛びはねて踊る写真からは熱気が伝わってくる。藤本さんは「南北(現在の韓国と北朝鮮)いずれの出身かを問わず、民族が集まる珍しい祭りだった。本来、半島はひとつの国だったと実感させられた」と当時の様子を語る。

 藤本さんは昭和45年、20歳のときに初めて韓国に渡航。朝鮮半島の仏像や陶磁器、特に朝鮮時代の職人が作った日用雑器に魅了され、現地をたびたび訪れたとされる思想家、柳宗悦(明治22-昭和36年)の足跡をたどり、山村や登り窯などを写真に収めた。

 作品は在日韓国人向けの季刊誌に連載し、渡航がままならない時代に祖国の姿を伝える役目を果たした。ただ、こうした韓国の原風景は1970年代、韓国政府の近代化運動「セマウル(新しい村)運動」で、朴正煕(パク・チョンヒ)政権が農漁村の冠婚葬祭や祭りまで禁じたことで徐々に失われたとされる。

 貴重な資料に韓国側も注目し、平成24年に韓国・国立民俗博物館の要請でネガ約4万6千カットを寄贈。藤本さんも写真展も開くなど評価された。

 現地での撮影が難しくなったころ、藤本さんが目を向けたのは、大阪のコリアタウンだった。知人や留学生のつてを頼りに在日社会の祭りや婚礼などを撮影した。かつての在日社会は祖国の法事の伝統や民族同士の結婚にこだわる人が多く、「韓国人よりも韓国人らしい文化が見られた」と藤本さんは言う。

 ただ、コリアタウンも時代の変化とともに伝統的な風景は消えつつある。生野民族文化祭は20回の節目をもって幕を下ろし、結婚や法事も簡略化する傾向にあるという。藤本さんは「切り取った時代の変化を写真集を通して伝えたい」と話している。

 写真集は税込4104円。問い合わせは草土社(0120・104・916)。