社会・その他

便利さがかえって不安を助長 シェア事業が人々から嫌われはじめたワケ (5/5ページ)

 少し難しいですが、たとえて言えば、個々の選手の能力は高いのに相互の信頼関係が壊れているチームよりも、個々の能力が共有されみんなで目標に向かえる信頼関係のあるチームのほうがいい結果を残せるということ。このとき、チームのなかに生まれている関係が「ソーシャル・キャピタル」であり、パットナムはこうした信頼関係がアメリカの地域社会から失われつつあることを指摘したのです。

入れ替えがゆるい「立ち飲みレベル」の関係がいい

 ソーシャル・キャピタルは、排他的であったり、他者に参加を強制したりするつながりにもなるので注意が必要です。しかし、現在のような入れ替え可能性が高い時代には、ソーシャル・キャピタルのポジティブな面についても着目すべきだと僕は考えています。

 「便利過ぎてなんか怖いわ」

 「なんでも技術やお金で解決できるわけがないだろう」

 「残すべきものまで失われてしまっただろう」

 テクノロジーの進化を無条件に肯定し、つねに経済合理性だけでものを考えるあり方が勢いを増す社会のなかで、このように感じる人には、ソーシャル・キャピタルがある状態を理想とする感覚があるととらえれば良いと思うのです。

 先に、「馴染みの街」や「顔見知りの店員」といった関係性は、お金の観点からすると不合理なものだと述べました。でも、街を歩いているときにいつの間にか個人店がほとんどなくなりチェーン店ばかりになっていて、ふと「味気ないなあ」と感じたことはありませんか?

 たしかに、個人店は色々面倒なこともある。いまでも大阪には、酒屋の隅っこで飲む「角打ち」などの文化が残っている場所もありますが、いきなり一見さんが入れるかと言えば、逆に居心地が悪くてちょっと無理があります。

 その意味では、ある程度人の入れ替わりがありながらも人とのつながりもある、中間くらいがちょうどいいのかもしれません。常連でがっちり固まっているわけでもなく、ちょうどいい感じの関係性が構築されている場所。思えば、「立ち飲み」が注目されたのはそんなところに理由があるのではないでしょうか。

 いまの時代には、そんな「立ち飲みレベル」の関係性がおそらく求められているのだと思います。

 鈴木謙介(すずき・けんすけ)

 関西学院大学准教授、社会学者

 1976年、福岡県生まれ。2004年東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。国際大学GLOCOM助手などを経て、09年関西学院大学助教、10年より現職。専攻は理論社会学。『サブカル・ニッポンの新自由主義』『ウェブ社会の思想』『カーニヴァル化する社会』など著書多数。06年より「文化系トークラジオLife」(TBSラジオ)のメーンパーソナリティをつとめるなど多方面で活躍。

 (関西学院大学准教授、社会学者 鈴木 謙介 写真=iStock.com)(PRESIDENT Online)

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