客よりも「希少」な従業員
マーケティングに関するこんな逸話がある。
「ハンバーガー店を開くとしたら、あなたが最も必要だと考えるものは何か?」
この問いに、ある人は質の高い材料と答え、ある人は秘伝のソース、ある人は立地の良いお店と答えた。しかしその問いを出したマーケターは「私が欲しいのは腹をすかせた客だ」と答えたという。
この話の意図するところは商品ではなく顧客にフォーカスしろということなのだろう。マーケットインといった用語もあるが、マーケティング的な発想としては基礎の基礎だ。
初めて読んだ時にはなるほどと感心したものだが、現在は客以上に従業員が必要という企業は決して少なくない。人手不足倒産と言われる状況はまさにこれにあたる。もちろん客がゼロではそもそもビジネスは成り立たないが、最優先すべきは従業員の確保ということで顧客ファーストが崩れかかっている。
従業員が働きやすいか? 楽しく働けるか? 誇りを持って働けるか? この仕事をやることで成長できるか?
企業によってはこれらを顧客満足以上に優先して商品・サービスを提供する必要がある。経済学や経営学では最も希少なモノ(リソース・資源)を最も有効に利用できるように最適な行動を決めるべきであると考える。希少なモノが顧客から従業員へと変われば、おのずと最適な行動も変わる。つまり従来の常識が大きく変わる、ということになる。
客にもアルバイトにも大人気のスタバ
当然のことながら従業員に楽な仕事を与えれば人が集って繁盛するといった単純な話ではない。従業員が仕事で手を抜いたり偉そうにふんぞり返っているようなお店で働きたいとは誰も思わないだろう。従業員満足度と顧客満足度は表裏一体、車の両輪である。
過剰に利便性を追求し、顧客ファーストであることによって従業員が負担を被ったり、長時間労働になったり、あるいは高品質で低価格の商品を提供するために極端な低賃金で働いている……。インターネットの普及で従来は目に入らなかったそんな部分まで目に入るようになった。顧客だけを優先して従業員を犠牲にするようなビジネスモデルは人手不足の時代に到底受け入れられない。
不人気で慢性的に人手不足の飲食業でありながら、別格と言われるスターバックスコーヒーはアルバイトでも高い人気を誇る。anのアンケートでも、2015、16、17と人気のアルバイトランキングで3年連続で1位となっている。
カフェが若者に人気であることは当然影響しているが、カフェチェーンは他にいくつもある。そんな中でスターバックスが突出している理由はイメージの良さに尽きる。
店舗で提供される商品、接客、居心地の良さなど、顧客体験の質の高さが「ここで働きたい」と思わせる要因だ。つまり顧客満足度が採用に極めて強く影響している。