社会・その他

「年俸1000万円の板前」も続々出現 給与を上げない経営者は見捨てられる (1/2ページ)

 昨年10月から実施した消費増税の影響で景気が底割れしそうな気配だ。そうでなくても低迷していた国内消費が、増税を機に一気に悪化している。

 総務省が昨年12月6日に発表した10月の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの消費支出は27万9671円で、物価変動の影響を除いた実質ベースで前年同月比5.1%も減少した。政府は消費増税による消費の反動減を防ぐために、ポイント還元の導入などを実施、9月までの駆け込み需要は前回の消費増税時より小さかったので、反動減も小さいと見ていた。

 ところが、10月の消費に関わる統計はメタメタ。家計消費支出も、前回2014年に消費税率が5%から8%に引き上げられた直後の14年4月は4.6%減だったので、今回はそれを上回った。また、軽自動車を除く自動車(登録車)の販売台数も、10月としては統計を取り始めて以来の最低を記録。日本百貨店協会がまとめた10月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)も前年同月比17.5%減少した。

 日本チェーンストア協会が発表しているスーパーなどの売上高(店舗調整後)も、9月には2.8%増とほとんど駆け込み需要がみられなかったものの、10月は4.1%減と大きなマイナスになった。日々の食料品などが多いスーパーの売り上げ減は、消費増税が家計を直撃した結果とみられる。

 この消費への打撃がいつまで続くか分からないが、2020年の景気の行方は、消費がさらに悪化するのか、どこかの時点で盛り返すのかにかかっている。政府は総額26兆円という巨額の経済対策を打ち出し、景気悪化を食い止めようと必死だが、旧来型の公共事業では個人の懐があたたまるまでに時間がかかることから、即効性は乏しいとみられる。

 消費が盛り上がらなければ、日本経済が回復しないことは、GDP(国内総生産)の6割以上を「消費」が占めていることからも明らかだ。ところが、その消費を担う産業、小売りや飲食、宿泊といった事業が、日本の典型的な「低生産性産業」「低付加価値産業」になっている。働き手1人が生み出す付加価値(労働生産性)が低いために、結果として働き手が受け取る給与も低く抑えられている。どうやって、こうした分野で付加価値を増やし、給与を増やしていくかが、重要なのだ。働き手の数が多いサービス産業で働く人たちの給与水準が引き上げられれば、それが消費に回り、景気を底上げすることができる。

 日本生産性本部の調査を更新した滝澤美帆教授の推計によると、15年の産業別の生産性(1時間当たりの付加価値)は米国を100とした場合、「運輸・郵便」が47.7、「宿泊・飲食」が38.8、「卸売・小売」が31.5となっている。付加価値が低い産業は総じて給与も低いため、働き手が集まらず、慢性的な人手不足産業になっている。こうした分野の付加価値を上げるにはどうすれば良いのだろうか。

 非正規に入れ替えてコストを下げるのが「生産性向上」?

 生産性というと日本人は、工場の生産性向上策を思い浮かべる。1時間に100個作っていた部品を110個にすれば生産性が10%上がるという製造業の考え方だ。部品の価格はまず上がらないから、生産性を上げて利益を確保する。もちろん同じ1時間だから従業員の給与は変わらない。場合によっては、賃金の安い非正規労働者に入れ替えて、コストを下げる。それこそが生産性の向上策だと信じてきた。

 だが、サービス産業の「生産性」は本来まったく違う。ところが日本では長年、製造業と同じ発想でサービス産業の「生産性」が語られてきた。つまり1時間にこなせる顧客の数を増やすにはどうするかばかりが考えられてきたのだ。1時間でこなせる顧客の数を増やし「回転数」を上げる、あるいは接客する従業員の数を減らして1人が扱う顧客の数を増やすことに躍起になってきた。そこに従業員の給与を増やしていくという視点は生まれない。

 本来、サービス産業で付加価値を増やす方法は「値段を上げる」ことだ。ところがデフレ経済の中で、価格を下げることが優先された。ようやくデフレから脱却しかけている現在、本来は価格を上げることが重要なのだが、値上げすれば客が逃げるのではないかと不安で、値上げできない。

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