新型コロナウイルス感染拡大の雇用維持対策として国が整備した休業補償制度をめぐり、「会社が助成制度を利用せず補償が受けられない」との訴えが相次いでいる。休業に関する制度は複数あるが、感染終息が見えない中、緊急事態宣言を受け補償されないケースが増える可能性もある。
休めば職場回らない
外食チェーン大手の千葉県内の店舗で働くパートの女性(35)は、3月上旬から長男(3)の幼稚園が休園。1日約4600円の給与を食費など生活費にあててきたが、出勤できなくなった。学校休校などに伴い保護者が働けない場合の休業補償を国は新設。日額最大8330円を会社に助成する仕組みで、女性の場合は給与全額がカバーされる。
しかし、会社はこの制度を使わず、独自に「1日当たり2000円払う」と通告。女性が理由を尋ねると「従業員全員が国の制度を使って休めば、職場が回らない」と説明されたという。見直しを求めたが応じられなかった。幼稚園休園は5月6日までで、収入の半減が続く。
業績悪化で雇用維持しながら休業させる従業員に手当を出す企業は、国の雇用調整助成金を受けられる。6月末までの特例で、中小企業は最大10分の9の助成率に引き上げられた。ただ、企業に一定の持ち出し負担は残る。
「感染終息がいつになるのか見通せず、休業手当を払い続けるのは難しい」。東京都江東区のタクシー会社ロイヤルリムジンは、8日から事業を停止し、グループ全体で従業員600人超を解雇した。担当者は「運転手の安全が確保できない中で事業を続けられない。会社都合の解雇による失業手当をスムーズに受け取ってもらう方が生活のためになると判断した」と説明する。今後、事業を再開し全員を雇い入れることを目指すという。
連合が3月末に実施した電話相談では「補助を受けるための書類が膨大で申請はしない」「休業手当は払わない」と会社から言われたとの訴えが相次いだ。
企業の責任で休ませた場合、賃金の6割以上の休業手当を支払う義務が労働基準法に規定されているが、義務回避の広がりが懸念されている。
国の見解あいまい
安倍晋三首相は7日に緊急事態を宣言。対象7都府県では知事の判断で多数の人が集まる施設の休止を要請できる。労働組合「総合サポートユニオン」(東京)の青木耕太郎共同代表は「営業休止を求められれば会社の責任ではないから休業手当は払えないと言われた人からの相談が多数寄せられた」と危ぶむ。
加藤勝信厚生労働相は7日、「一律に、直ちに義務がなくなるものではない」と強調したが、企業に配慮を呼び掛けるにとどまった。青木共同代表は「国の見解があいまいなままだと、休業手当を払わない企業が相次ぐ恐れがある。仮に義務が免除されるなら、国が責任を持って労働者に直接給付すべきだ」と指摘した。