著者は語る

ジャーナリスト・大塚英樹氏『中内功 200時間語り下ろし』

 □『中内功 200時間語り下ろし(第1巻) 復刻版 仕事ほど面白いことはない』

 ■「消費者主権」掲げ流通構造に変革

 本書は、私がダイエーの創業者・中内功に20年間密着し、発表してきた書籍や論考をまとめた、中内功論の3部作です。なぜ今、中内功なのか。いや、今だからこそ中内功なのだ--。

 中内はメーカーやさまざまな規制を向こうに回し、主婦や庶民、すなわち消費者の代弁者として「価格破壊」を成し遂げるべく闘い続けました。さまざまな社会インフラや流通網を整備し、焼け野原だった日本に物質的な豊かさをもたらし、さらには文化の揺籃(ようらん)となる土壌を育てていった。もはや忘れ去られてしまっていますが、いまなお中内の遺産は日本各地にあります。

 中内は金もうけに成功し、やがて散財して没落した経営者ではない。社会のありようを根本から変えた変革者であり、社会事業家であったのです。

 中内は革命文化を貫いた。農協を敵に回し、商店街を敵に回し、メーカーを敵に回し、行政を敵に回しました。スーパー頑張れ、中内頑張れ、と応援するのは、日々買い物をする主婦たちだった。その主婦の声に後押しされてやり遂げたのです。中内は日本がタブー視してきた生産者優位の世界に、「消費者主権」の御旗を振りかざしながら切り込み、世の中をかき混ぜ、そして死んでいったのです。

 その革命的な思想は、結果的に日本の消費構造、流通構造を変えました。飢えに襲われながら戦場をさまよい歩き、「すき焼きが食べたい」と願った中内。ロジスティックス(兵站)、すなわち物流なり流通の重要性を骨身にしみて帰国した後は、流通革命によって人々を物質的に豊かにすることを夢想した。そんな中内によって、メーカー主導で、系列店が小売りを担う日本の流通の在り方が根底から変わっていったのです。

 彼を一人の企業経営者ではなく、流通を通して社会変革を目指した思想家として考えれば、思想家としては失敗ではなく、大成功でしょう。

 中内の革命文化は、今もなお生きている。中内は、たくさんのモノを消費者、大衆に提供するには、それを買ってもらえるような価格を実現する必要があると考えた。企業や国家に決められ、押しつけられるのではなく、消費者が自分で選び取る、すなわち消費者主権の流通革命が必要だと考えたのです。今やそういう時代になりました。(1500円+税 講談社)

【プロフィル】大塚英樹

 おおつか・ひでき 1950年、兵庫県生まれ。テレビディレクター、米ニューヨークでの雑誌スタッフライターを経て、83年に独立しフリーとなる。国際経済を中心に、政治社会問題など幅広い分野で活躍。これまでに1000人以上の経営者にインタビューを行った。ダイエー創業者の中内功には、83年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には「流通王-中内功とは何者だったのか」(講談社)「続く会社、続かない会社はNo.2で決まる」(講談社+α新書)などがある。

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