高論卓説

新型コロナで「妄想」伴う鬱病増加 情報過多で疲弊、ネットと距離を

 ここのところ、毎日のように新型コロナウイルスのニュースを目にしていると少し体調が優れないだけで「もしや自分も」と不安になる、という相談が多い。特に、基礎疾患を抱えている人や、仕事を休めない人などは敏感にならざるを得ないようである。(舟木彩乃)

 相談はさらに、「こんなに不安になっている自分はおかしいのだろうか」と続く。これに対し、今の不安は自然災害に遭ったときに不安になるのと同じで、「あくまで自然反応で、あなただけが不安になっているわけではない」ということを伝える。えたいの知れない新型コロナ相手に自粛を強いられる日々では、健康面に加え経済面での不安から、心身の不調に悩まされる人が多くいる。

 では、自然反応の不安と不健全の不安の境はどこにあるのだろうか。

 東京都内にあるAさん(男性、30代)の会社は、緊急事態宣言以降、在宅勤務が中心になった。彼はもともと心配性で、国内で感染者が増加し始めた頃から、感染したらどうしようという思いにとらわれた。新型コロナの情報を求めて、インターネットから目が離せない状態となり、夜は眠れなくなり、気力は低下し、本来やるべきタスクができなくなって仕事に支障をきたすようになった。

 不健全の不安は、ネットサーフィンなどで本来やるべき仕事やタスクに支障がでる状態が目安となる。ネットで忙しくて時間がなくなってしまう場合だけでなく、情報で不安になり仕事や家事が手に着かなくなる場合も含む。

 Aさんは、四六時中感染症のことを考えるようになり、少しでも体調が悪くなると「新型コロナの初期症状だ。これから重症化するに違いない」と思い悩むようになった。体調が良くなってからも「まだウイルスが身体に残っていて再発するかもしれない」という考えが頭から離れず、かかりつけ医に何度も相談した。レントゲンや血液検査で問題がなくて一旦安心しても、またすぐに不安になったそうだ。

 Aさんのような状態は、妄想を伴う鬱病が疑われる。鬱病は、食欲や睡眠欲などが低下して抑鬱状態が続くのだが、妄想を伴う鬱病は、客観的事実とかけ離れた悲観的な妄想をいだくのが特徴だ。

 妄想には、「心気妄想」(大きな病気を患っているに違いないと考える)、「罪業妄想」(些細(ささい)なことにとらわれ、取り返しがつかないことをしたという罪の意識を負う)、「貧困妄想」(お金に困っていないのに破産の心配をする)-など3種類があり、「鬱病の3大妄想」と呼ばれている。

 Aさんの場合は、自分は新型コロナに罹患(りかん)していて重症化するに違いないという思いにとらわれており、「心気妄想」が考えられる。心配性な性格に加えて、過度な情報収集で疲弊し、得た情報を全て悲観的に受け取ってしまっていた可能性がある。

 Aさんは、かかりつけ医から心療内科を紹介され鬱病と診断された。妄想を伴う鬱病は、重度の鬱病の場合がある。現在は、服薬しながら、自分にとって恐怖となる情報番組を見ないことや、ネットサーフィンをしないことを助言され、それを守りながら少しずつ回復に向かっている。

 今は誰でも多少なりとも不安があって当然だが、もし自分の不安が不健全の領域に入っていると思ったときには、ためらわず心療内科などに相談すべきだと思う。

【プロフィル】舟木彩乃

 ふなき・あやの ヒューマン・ケア科学博士。メンタルシンクタンク副社長。筑波大大学院博士課程修了。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。千葉県出身。

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