働き方

最低賃金審議会 「外堀」埋まり後退余儀なく

 2020年度の最低賃金の改定は「目安を示さず」で決着し、4年連続の大幅引き上げの流れが途絶えた。安倍晋三首相は厚生労働省の審議会の議論に先駆けて新型コロナウイルス感染拡大で苦境に立つ中小企業への配慮を示した。引き上げ「凍結」を求める経営側を後押しする形となり、外堀を埋められた労働側は粘りを見せたが、後退を余儀なくされた。

 「受け入れられないから席を立つということも考えた」。働く人の処遇改善を掲げて引き上げ継続に不退転の決意で審議会に挑んだ連合の幹部は悔しさをにじませた。不安定さが増す非正規雇用労働者の生活を安定させるためにも継続が必要だと訴えてきた。

 首相は審議会が始まる直前の6月上旬、政府会議の場で「中小企業、小規模事業者が置かれている厳しい状況を考慮して検討するようお願いする」と発言。現在の時給901円の全国平均について早期に1000円を目指す政府方針は堅持したが、引き上げ抑制を示唆したと受け止められた。

 4月の政府の緊急事態宣言発令に伴う休業や自粛で、観光や宿泊、飲食業を中心に経営に深刻なダメージが出ており、首相発言で「凍結」を求める日本商工会議所など経済団体は勢いづいた。

 「今年は上げてほしくないのが本音」。那覇市の観光名所・国際通りに近いホテル「サンパレス球陽館」の金城仁社長(54)は胸の内を明かす。従業員には今期の賃上げは難しいと厳しい経営環境に理解を求めたばかりだ。

 沖縄県の最低賃金は時給790円。ホテルではパートの時給は最も低い人で800円だが、それでも緊急事態宣言に伴う休業中のホテル維持にかかる費用の6割は人件費だ。米中枢同時テロでの沖縄への風評被害、リーマン・ショックや東日本大震災後の不況で試練を経験した金城社長は「これほどの危機はなかった。雇用の継続がやっとで、それもどこまで持つか」と身構える。

 新型コロナの感染拡大の影響でエッセンシャルワーカーと呼ばれる食品店の販売員や宅配業者、そして医療や公共交通の関係者など、生活に必須な仕事に従事する人たちの処遇の低さも課題になった。

 「地方でも食費や光熱費など生活に必要な経費が都会と比べて大幅に安いわけではない。最低賃金の水準では生きていくのが精いっぱいだ」。岩手県奥州市の菅原豊彦さん(41)は30代後半に体調を崩し、非正規雇用で地元の食料品店で働いている。3月までの時給は岩手県の最低賃金790円をわずかに上回る800円で、現在は840円にアップしたが、それでも1日8時間勤務で手取りは月12万円程度にしかならない。

 菅原さんは親戚や知人の協力を得てなんとか暮らしを維持してきた。「事情があって非正規で働かざるを得ない人も多いはず。今の時給では非正規から抜け出すための自己投資もできない」とため息をつく。

 日本総合研究所の山田久主席研究員は、「本年度は特殊な環境なので仕方ないが、政府がこれまで進めてきた賃金引き上げの流れは維持していくべきだ」と強調。コロナ禍でも賃上げに踏み切った中小企業に補助を出すなど政府の支援強化を訴えた。

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