働き方

「皿洗い30分で無料」の原点 今月末で閉店、京都・餃子の王将出町店 (1/2ページ)

 大学の街・京都で、30分間の皿洗いをした学生に無料で食事をふるまってきた「餃子の王将」出町店(京都市上京区)が今月末で閉店する。「金もうけは関係ない。お客さんが満腹になって喜んでくれたらそれでいい」。自身も若い頃、食費で苦労したという店主の井上定博さん(70)がこうした思いで続けてきたが、後継者もいないことなどから、惜しまれつつ看板を下ろす。(井上裕貴)

 周辺に京都大や同志社大の学生が多く住む出町枡形商店街近くの王将出町店。

 《めし代ない人お腹いっぱいただで食べさせてあげます》

 入り口に張り紙が掲示された店内では、白いエプロン姿の井上さんが慣れた手つきで中華鍋を握る。昼時には狭い厨房(ちゅうぼう)で、ギョーザを焼きながら、チャーハン、エビチリ、豚キムチと次々に入る注文をさばく。合間に唐揚げをサービスしたり、世間話を楽しんだりする接客で、店はアットホームな雰囲気だ。

 原点には井上さんの「目の前にいる人を喜ばせたい」との思いがある。

 京都市伏見区生まれ。20歳のとき、結婚を反対されて大阪へ駆け落ちしたものの、食費にも困る貧しい生活だった。夕食はいつも、50円のサバ1尾を夫婦で分けて食べ、しばしば職場の先輩が家に招いてはすき焼きや水炊きをごちそうしてくれた。「おいしい料理と満腹になった幸せは忘れられない」と当時を振り返る。

 その後、京都に戻り餃子の王将に勤務。昭和57年、当時店長を務めていた店で「若いときに苦労したからこそ、今度は自分が困っている人を助けたい」と、30分間皿洗いをした学生に食事を無料で提供するようになった。平成7年に出町店のオーナーになってからも続け、地元の学生に愛されてきた。

 だが、古希を迎え、フランチャイズオーナーの定年に。後継者もいないため、閉店を決めた。「定年なので仕方ないが、コロナで困っている学生が多いなか店を閉めるのは心苦しい」と明かす。

 これまで無料でふるまってきた料理は3万食以上。2年前から衛生上の理由から皿洗いは中止しているが、「昨日からご飯を食べていない人」「仕送りやバイト代が遅れている人」に限り、無償提供を続けている。

 一番の喜びは卒業した学生が店を訪ねてきたとき。ある同志社大の男子学生は、卒業後に東京で起業。結婚して子供とともに店を訪れ、「井上さんがいたからこの子がいる、抱いてやって」と言われたときは喜びで涙があふれたという。

 井上さんは約40年間の思い出をかみしめつつ、こう語る。「自分が助けた学生が大人になったとき、また若い人を助ける。そうすれば世の中がよくなっていく」

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