「市川監督も今の私とほぼ同じ年齢(当時48歳)で引き受けた。やはり運命を感じます」と河瀬さん。自身が選ばれた理由を「世界的な評価を獲得している開催国の監督、という条件に合致したからでは」と分析する。
日本人の精神性
その言葉を裏付けるように、海外での評価は高い。最新作「朝が来る」は4月発表の米アカデミー賞・国際長編映画賞(旧外国語映画賞)部門の日本代表に選ばれた。特別養子縁組で子供を迎え入れた夫婦と、その子を出産した若い母親の苦悩をリアルに描く作品からは、自身も養女として育てられたという強い思いがにじむ。海外にその思いが届くか、注目されている。
世界的な評価について河瀬さんは、97年のカンヌ国際映画祭でのカメラ・ドール(新人監督賞)受賞作「萌(もえ)の朱雀(すざく)」を例に挙げる。過疎の村でつましく暮らす家族が題材だ。「日本人のアイデンティティーや、清貧を重んじるといった現代社会が失いつつある精神性を深掘りしたからだと思う。でないとカンヌが見つけてはくれなかった」
その思いは東京五輪の公式映画にも共通する。「今回の東京五輪を日本人の精神性の象徴ととらえ、映画として後世に残したい」
【プロフィル】河瀬直美(かわせ・なおみ) 昭和44年生まれ、奈良市出身、在住。大阪写真専門学校(現・ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒。1997(平成9)年、劇場映画デビュー作「萌の朱雀」でカンヌ国際映画祭「カメラ・ドール」(新人監督賞)を最年少で、2007(平成19)年には「殯(もがり)の森」が同映画祭「グランプリ」(審査員特別大賞)を受賞。東京五輪公式記録映画の監督とともに、25年大阪・関西万博のプロデューサーを務める。