働き方

「それは私の仕事じゃありません」テレワーク下で起きている"昭和×平成"対立の実態 (2/2ページ)

 こうした日本型の人事制度によって長年にわたって今の職場風土が形成されてきたわけであるが、これを一挙に欧米のジョブ型に変えたら、脱年功によって中途半端な専門性しか持ち合わせていない人は給与が下がるなど職場は混乱するだろう。

 また、専門スキルを持たない学生の就活が困難になるだけではなく、送り出す大学も教育内容の変更を迫られるなど混乱するのは必至だ。

 「私の仕事はここまでです、これ以上やりません」では困る人

 もっとも日本企業のジョブ型導入企業の多くは欧米のジョブ型をそのまま真似たものではない。ジョブ型の賃金制度に着目し、その目的は「脱年功主義」にある。しかも職務は仕事基準ではあるものの、細かく定義した職務ではなく、職務・職責に一定の幅を持たせ、大括りに定義したものだ。

 その結果、本来のジョブ型にはない会社主導の転勤などの人事異動も実施され、定期昇給はないが人事評価によって職務等級内の基本給やボーナスのアップダウンが実施されている。さらにノースキルの新卒の一括採用も行われている。

 欧米のビジネスパーソンが見たら、とてもジョブ型と呼べるものではなく、日本的ジョブ型、もしくは「なんちゃってジョブ型」と呼んでもいいだろう。それでも「職務記述書」によって職務範囲を限定するとテレワークはやりやすいかもしれない。

 しかし一方で今までの業務が機能しなくなってしまうという声もある。大手イベント会社の人事部長はこう語る。

 「当社の業務はプロジェクト単位で動いている。一つのプロジェクトに営業やプランナー、設計のクリエイター、モノを製作する現場の担当者などいろんな職種の社員が集まって事業を完成させる。その中で、たとえば営業は顧客から仕事を受注するだけではなく、時にはプランナーに代わって提案したり、現場に出向いたりして製作担当者との調整も行っている。そこに職務を限定したジョブ型を導入し、『営業なので私の仕事はここまでです、これ以上やりません』となったら仕事が進まずプロジェクトが機能しなくなってしまう。当社に限らずクリエイティブ系の仕事が多い会社は難しいのではないか」

 40代後半以上はチームプレー重視し、若い世代はジョブ型志向

 職種が違う者同士が意見を出し合い、互いの業務を補いながら進めるプロジェクトは不向きと言う。また、流通会社の人事部長はジョブ型を導入すれば社員間の対立をあおることになるだけと指摘する。

 「中途採用で外資系企業から入ってくる人もいるが、職場で問題となるのは決まって『私の仕事はここまで』と言う人だ。ジョブ型の仕事のやり方をしてきたからしかたがないのだが、上司や同僚から『あまりにも協調性がなさすぎる』と非難され、職場で浮いてしまい、結果的に辞めていく人が多い。一度、外資系銀行出身の社員から、『上司から仕事を無理強いされている、パワハラではないか』と相談を受けたことがある。よく聞くと社員の言い分はそれなりに正しい。人事評価項目の『協調性』や『コミュニケーション』を見ても、自分の役割の範囲内ではちゃんとやっている。しかし、自分の範疇以外の仕事は一切やらない。元の外資系銀行では他人の仕事をやると逆に怒られたと言っていたが、それとは違う当社の職場風土には合わない。“混ぜるな危険”ではないが、こんな風土にジョブ型を入れたら職場が混乱するに決まっている」

 外資系アレルギーならぬジョブ型アレルギーの強い日本企業もある。しかも今の40代後半以上の世代は何事もチームプレーを重視し、上司に仕事を依頼されたらどんな仕事でも「喜んで!」と引き受けてきた人が多い。

 しかしその一方で若い世代には専門スキルを極めてキャリアアップを図りたいという、ある意味でジョブ型志向の人も少なくない。

 前出のイベント会社の人事部長が懸念するのは、経営者による安易なジョブ型の導入だ。はやりに乗り遅れてはいけない、といった軽いノリで決めてしまう幹部が多いのだ。

 「コロナ禍で業績不振に陥っている企業が多い。経営者の中には脱年功主義によって固定費の人件費を抑えることもできるというメリットに惹かれる人もいるだろう。その上、テレワークもできます、ジョブ型にします、と言えば若い世代だけではなく、優秀な新卒・中途を採りやすいかもしれない。しかし、安易に導入すると、年功的な職場風土で育った50代以上が多い企業だと社内の反発や混乱を招くことになるだろう」

 ジョブ型の意味と職場に及ぼす影響をあまり理解していない経営者が安易に導入すれば、若い社員とオジサン世代の対立を生み、職場が混乱することになる。

 経営者としては売り手(求職者)よし、買い手(会社)よし、世間(社員・職場)よし--という“三方よし”と思って導入した結果、社内が混乱し、生産性も著しく低下する事態になりかねない。

 

 溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)

 人事ジャーナリスト

 1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

 

 (人事ジャーナリスト 溝上 憲文)(PRESIDENT Online)

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