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「ノーベル賞級の研究者が愛想をつかす国」から脱却 日本経済の鍵握るディープテック開拓に政府が本腰 (1/2ページ)

苅野進
苅野進

 9月に発表になったノーベル物理学賞を、日本出身で米国籍の研究者・真鍋淑郎さんが受賞しましたが、「米国籍」になっているという点に注目が集まりました。そして、真鍋氏は米国籍を選んだ理由としてやんわりと「同調圧力」と「潤沢な予算」を挙げました。わかりやすく言うと、日本では「前例のない独自の研究に対して、予算をつけてもらえない」ということです。

 ノーベル賞になるような画期的な研究には2つの投資リスクが存在します。

  • そもそも失敗に終わる可能性
  • たとえ成功しても投資回収するような用途がない可能性

 というものです。よって、かなり資金的に余裕がなければ投資が難しいのです。

昨今、大学での研究資金が乏しいと言われているので、今後ノーベル賞を取れるような研究はますます減ってくるのではないかと問題視されています。

 ノーベル賞というとちょっと縁遠い学問の話かと考える人もいるかもしれませんが、この傾向はまさに日本のベンチャービジネスにおいて同様に危惧されています。

ディープテックに注目が集まるワケ

 それはディープテック(Deep Tech)、つまり非常に高度な科学技術で、大きな問題解決につながるようなテクノロジーについてです。

 SDGsの観点から大きな社会問題をドラスティックに解決するのに役立つような研究が求められていますが、このようなものはまさに失敗と隣り合わせであり、製品化と資金回収も未知数です。この分野における日本のスタートアップは、資金集めに苦労しています。そして能力のあるノーベル賞級の人材はアメリカと中国にどんどん移籍しています。ノーベル賞と同様に、製品化、雇用の創出という研究の成果を日本人が享受できる機会も減ってくるのでしょう。科学者個人の根性、責任感や使命感ではディープテックの研究を大きく進めることはできないのです。

政府や東大がついに動き出した

 このような状況の中で最近2つの良いニュースが気になりました。

 1つ目は、この8月から経産省の主導により「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」が一部施行されたというものです。重要な内容としては、経産省から認定を受けたディープテック関連の事業計画に対しては、50億円までの融資の半分を中小企業基盤整備機構が債務保証してくれるというものがあります。銀行が融資の決断をしやすくなることが期待されます。ヨーロッパなど諸外国では政府など公的な補助をしているのが主流となっていますので、その流れに乗り遅れまいとの動きでしょう。

 もう1つはテクノロジー系の起業家輩出で勢いのある東京大学で、この10月から「M&A・IPOを見据えたディープテック起業実践演習」という大学院生を対象とした講座が開講されたというものです。元々技術に関する基礎体力は高い学生が多いので、

  • 顧客視点講義

 によって製品化、収益化の意識が高まり、

  • スタートアップファイナンス講義

 によってバックアップを得る手段に関する知見を得ることが期待されます。

 お金を出す側が制度的にリスクを減らしてもらうだけでなく、複雑な基礎研究に携わる研究者自身が事業計画の立案能力と製品化センスの向上によって、投資を呼び込めたり、お金を借りやすくなったりすると研究の勢いも増すかもしれません。

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