【最強のコミュニケーション術】引き継ぎミスを引き起こす脳の「罠」 なぜあなたの説明ではダメなのか?

2019.3.5 07:00

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。みなさんは自分のコミュニケーション能力に自信がありますか?

 この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第2回は「説明」がテーマ。人事異動が増える季節には、引き継ぎや新しく入ってきた人への指導など、説明をする機会も多くなります。順を追って丁寧に説明し、質問がないことを確認したのに、後でやろうとした人がわからなくなる。これは説明の悪さのせいでも理解力の悪さのせいでもありません。

 自分がわかっている事柄について説明するときにどんなことが起きているのか。3つの「罠」とその対処法を確認しておきましょう。

透明性錯覚の罠

 みなさんは自分の考えていることや感じていることなどが、どれくらい伝わっていると感じているでしょうか。「その場にいたらだいたいわかるだろう」「表情から推測できるだろう」「説明したのだからわかるだろう」など、実際以上に相手に伝わっていると見積もってしまうことを「透明性錯覚」と言います。

 説明をするというシーンでも、実際以上に伝わってしまうと思い込んでしまう透明性錯覚は起こります。心理学者エプリーらは、この現象は注意深くすることによりある程度防げると2004年の論文で示しています。

 説明をするシーンでは、実際以上に伝わっていないということを前提にし、伝わっているはずという錯覚を減らしましょう。

あいづちの罠

 あいづちには同意を伝える機能のほか、話を聞いているということを伝えたり、理解していることを伝えたりする機能があります。しかし私たちは以下のようなときにも、あいづちを使います。

1.聞いているフリをしているとき

 よく聞こえなかった、考え事をしていて集中していなかった、聞きたくなかったといったときなど。返事があっても、きちんと聞いてもらえているとは限りません。

2.話している相手を気遣っているとき

 尊敬している人、敬意をあらわしたい人、先生など。指導する立場の人に対しては、先生的な意味だけでなく、感謝の気持ちからも、あいづちをうつ回数は増えると考えられます。

 「はい」「なるほど」「わかりました」といったあいづちは必ずしも理解と比例しません。

3.わかるようになるだろうと思っているとき

 英語で話しているときを想像するとわかりやすいと思いますが、私たちは完全に理解できていない場合にもあいづちをうつことがあります。「全体を聞けば理解できるだろう」と思っているときは、特にこの傾向が強くなります。しかし「いずれわかるだろう」という希望的推測が外れることもあります。 

わかったつもりの罠

 引き継ぎなど説明をする場面でよく使われるフレーズに「なにか質問ありますか」というのがあります。説明する側は、この質問をすることで疑問点を潰そうとし、質問がなければ「理解した」と考えます。

 しかし一通りの説明が終わった直後では「わからない部分に気づけていない」ことも多いものです。このケースがやっかいなのは、説明された側が「概ね理解できた」と感じることです。「なにか質問ある?」という問いに「ありません」という返事が返ってきても、理解のサインと思わないほうがよいでしょう。

 では、ご説明した3つの「罠」を回避するフレーズや行動をご紹介します。

「一度やってみてもらっていいですか?」

 説明したものの、相手に伝わっているかどうかわからない。運用の現実的なイメージを持てていない可能性もある。そんな場合には理解を確認するフレーズがお勧めです。説明が終わった後の「何か質問ありますか?」というフレーズを「一度やってみてもらっていいですか?」に変えてみましょう。

 おぼつかない状態を見ると、つい説明したくなると思いますが、グっとこらえて理解を確認するのがポイントです。一人で完遂してもらうことによって、「ミスをしやすい部分」「理解が間違っていた部分」「わからない部分」に気づいてもらいましょう。

引き継ぎメモは教える側がつくる

 引き継ぎでは、教わる側がメモをとり、それをマニュアル代わりにして今後の仕事をしていくケースが多いと思います。しかし教わりながらメモをとるというやり方では、抜け漏れも多く、マニュアルとしては不十分です。

 そこでお勧めなのは、教える側が引き継ぎメモを作ること。時系列での手順のほかに、間違いやすいポイントとそこからの復旧方法、わからなくなった場合に誰に聞けばいいのかを付け加えておくとよいでしょう。

 「そこまでする必要があるのか?」と思う人のために「知識の呪縛」という言葉を紹介しておきたいと思います。

勘違いの原因となる「知識の呪縛」

 私たちは既に知識があることについて、その知識がない状態で考えるのが苦手な生き物です。知らない状態を想像しても、一度身についた知識をゼロベースにすることができないことを「知識の呪縛」といいます。

「ここまでする必要はあるだろうか」と思ったときには、知識の呪縛という言葉を思い出してください。説明したことをできない部下を見て「能力が低い」と考えそうになったときも思い出してください。

 説明が通じないのはあなたの能力不足ではありません。そしてもちろん、一度で理解できない人の能力不足でもないのです。

◆◇◆

 引き継ぎなどのシーンでは、教える側も教わる側にも陥りやすい「罠」があると理解して、教える側がそれを補足するように説明することでミスを減らすことができるでしょう。

藤田尚弓(ふじた・なおみ)

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コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役

企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。>アーカイブはこちら

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