【ローカリゼーションマップ】イタリアは過小評価されているか? 世界に共通するテーマと深さで語れ

2019.4.19 07:00

 ブランド評価や戦略立案に携わるイタリア人と話をしている時、「イタリアの企業人は、イタリアという国が世界で過小評価されていると感じている人が多い」と彼は語った。またこの話題か、と正直ウンザリした。(安西洋之)

 今までこういう話を散々してきたから、過小評価だと訴える人がどういうタイプかを、ぼくもよく知っている。彼らはイタリアの文化や良いモノあるいはサービスが点で散らばっており、1つのカタチに集約されたイメージになっていないと思っている。イタリアがそれなりの経済大国であるのは確かなので、それは仕方ないだろうとも第三者のぼくとしては考える。

 しかし彼らの頭には、フランスの文化政策予算が政府予算のなかに占める割合の大きさ、またはLVMHのようなコングロマリットの存在感、こういったものが比較対象にある。

 ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」はルーブル美術館にあるし、グッチはケリングの傘下にある。「取られてしまった」感じがする。

 ドイツには工業国の優等生として敬意を払っているが、そもそもメンタリティからして好きではない(と、少なくとも表面上は言っておきたい)から、彼らとはまともに比べたくない。

 スカンディナビア諸国は、少ない資産を効率よく大きく見せ、ブランド戦略が巧妙である。さまざまな指標で生活の豊かさが上位に示され、それこそ過大評価されているのではないかと思わないでもない(と考えている節がある)。

 そうした構図のなかで、イタリアはどうも損をしているのではないか、もっとうまく立ち回れるはずだが、プロモートが下手だと彼らは自覚している。中央政府の官僚からしてそうだ。

 大きい青写真を描いて計画的にことを進めるのが嫌いで、手さぐりで柔軟に立ち向かうのが好きで得意だとしながら、上手くやっている他国をみるとやはり悔しさが先に立つようだ。

 もちろん、こういうタイプばかりではない。

 イタリアを自画自賛することを生業としている(としか思えない)タイプもいる。

 実際、Made in Italyという言葉はブランドとして存在感を放ち、グーグル検索に入れても、欧州の他国の同様の言葉と比べ、常に上位にある。そして、「イタリアは世界に愛されているのだ。世界になくてはならない調味料の1つ」と呟く。

 先に述べた過小評価をするタイプが決して国際派というわけでもないが、後者の過大評価のタイプは観光業を筆頭に、やや国内派に傾いているケースが目立つ。

 あるいはファッション・食・家具など、特定の業界の強さを根拠に主張する。彼らは生産地を表すMade in Italyの恩恵をこうむっている。しかしながら、いかんせん、イタリアという大きな括りを客観的にみる立場になく、しかも「俺たちの経験や評判をもっと使えばいいのに」と我田引水的である。

 GDPのような農産品の原産地呼称表示は合理的基準を積み上げて体系化されているが、これもある個々の製品群の話で、全体のイメージを一挙につくりあげるわけではない。

 一方、雑多なディテールがそのまま点として散在している状況が有利に作用する、と語る派閥もいる。体系化の不在こそが、万華鏡でみるようなミステリアスな姿を強調するのである。

 時に、こうしたミステリアスなイメージが運よく組み合わさると、ラグジュアリーブランドが成立する。 

 Made in Italyというブランドをより厳格に運営するアイデアもありそうだが、それは過小評価問題を解決するのか? つまり問題は生産地だけではなく、考え方の総体みたいなところにもっと目がいかないといけない。それが現代の世界のテーマにどう立ち向かうのか、という話だ。

 要するに、世界に共通するとても大きなテーマに、どれだけそのスケールにふさわしい広さと深さをもって語れるか。そして自ずと他国の人々から敬意と感謝の意をもってフィードバックを受けられるか。こういうレベルの自信の有無を問うことが、自己評価の根底にある。

 例えば、誰もがよく指摘するイタリアの強さに、人文学の伝統がある。だが、少しカビが生えた気がしないか? いや、テクノロジーやAIが大きく論議されるからこそ、人間の変わらない姿への視点が貴重なのだ。

 これが「また、そっちの話なの?」という気力のない表情とセリフを誘導しない力とは何なのか?

 こういうことだと思う。「なんで、イタリア人のぼくの一言がパンチに欠けるわけ? シリコンバレーの輩の言葉と比べてそん色ないでしょう?」と内心抱いている不満が過小評価、ややもすれば、不当評価とさえ言いかねない事情に繋がっている。

 まあ、ぼく自身の空想も半ば含んでいるので、すべてを本気でとらぬように(笑)。

【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちらから。

 安西さんがSankeiBizで連載している別のコラム【ミラノの創作系男子たち】はこちらから。

安西洋之(あんざい・ひろゆき)

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モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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