【今日から使えるロジカルシンキング】「正しい事実」はどれか? 事実と意見を分けるスキルを磨いてみよう

2019.6.13 07:05

第3回 事実と意見を分ける<応用演習>

 この連載では、子供にロジカルシンキングを教える学習塾ロジムの主宰・苅野進が、SankeiBiz読者のみなさんに、ビジネスパーソンにとって重要なスキルであるロジカルシンキングの基本スキルを伝えていきます。

 第3回は、前回の<基本>で扱った「事実と意見を分ける」について、実際に応用問題を解いてみましょう。まずはを復習します。

「事実と意見を分ける」の基本を復習

事実

「このりんごは100円だ」のように正誤判定が可能なもの。間違った事実も、事実のうちです

意見

「このりんごは高すぎる」のように人によって判断が異なるもの

学びのポイント

「意見」に過ぎないものを「正しい事実」のように考えて受け入れてしまうと、検証しようとする意識が疎かになる。意見の通りにならなかった場合のリスクを計算に入れなかったり、対策が不備になったりしまうので大きなトラブルの発生につながります

 では問題です。

問題1

「多くの顧客が望んでいる新しい機能について、我が社でも提供すべきだと思う。B社はすでに提供を始めたのだから」

【1】この提案の中の「事実」は何ですか?

【2】この提案の中の「意見」は何ですか?

問題1の解説

 「B社はすでに提供を始めた」というのは、客観的で正誤が確認できる事実です。「間違っていた事実」かもしれませんが「事実」です。

 「多くの顧客が望んでいる」というのも判断基準が示されていない以上、意見です。「多く」というのはどれくらいの人数なのでしょうか。発言者と聴衆の間に差があるかもしれません。ここを正確に確認しておかないと、実際は1人の担当者がそう感じていただけで、サービスを開発・提供しても売れなかったというようなことになりかねません。

 「我が社でも提供すべき」はもちろん発言者の意見です。意見ですので、「本当にそうなのか?」「他に選択肢はないのか?」といった議論に耐えられるような根拠を示す必要があります。

 ビジネスの場で「意見」は「事実」より弱いということはありません。最終的にはリスクなど様々な未知の情報を考えに入れて「ある意見」を採用することになるのです。大事なのは「多くの顧客が望んでいる」を何の検証も必要のない正しい事実だと考えて受け入れてしまうことです。

 したがって、解答は次のようになります。

問題1の解答

【1】事実:B社はすでに提供を始めた

【2】意見:多くの顧客が望んでいる、我が社でも提供すべき

 では2問目です。

問題2

 次のメールは、ある人材採用コンサルティング会社の営業担当の山田さんが新規顧客獲得のためのA社とのアポイントメント後に上司に報告をしたメールです。

 このメールは事実と意見が混在して書かれています。明確に区別をして書き直してみましょう。

田中部長

お疲れ様です。先日、A社にアポイントメントが取れましたので報告いたします。

先方は人事部新卒採用担当責任者のB様です。A社はこの3年間ほど、採用でW社のシステムを利用しているとのことです。

W社のシステムにはかなり不満があると言っています。

求人サイトの担当者と面接管理のシステムの担当者が違う

説明会やイベントは別会社になり、それぞれ対応している

W社の担当者は、A社の要望に応えていないので十分弊社にリプレイス可能

A社のことを理解できていないので求人サイトでイメージが伝わっていない

このあたりについて、他にも良い事業者がいれば受け入れてくれると思われます。

また、

W社の面接管理のシステム担当者はあまり細かいところに気づくタイプではなさそうで、いろいろな問題があると思う

以上です。

今後の営業方針について一度打ち合わせをお願いいたします。

山田

問題2の解説

 有益な情報をいろいろ聞き出せたのでしょうが、上司にとっては「W社とA社のシステム・担当者との間で発生したトラブル」「W社の担当者が実際に口にした不満」と「担当の山田さんの意見」は明確に区別して知りたいのです。

<事実>

A社はR社のシステムを使っている

R社は求人サイトと面接管理の担当者が違う

W社の担当Bさんは不満だと言っている

W社は説明会やイベントを別会社に担当させている

<意見>

W社の担当者はA社の要望に応えていない

W社の担当者は理解不足

A社のイメージが伝わっていない

W社の面接管理システム担当者は細かいことに気づいていない

問題2の解答

 事実と意見を区別して書き直してみるとこうなります。

山田部長

本日A社の採用担当B様とアポイントメントが取れましたのでご報告致します。

<1>A社の使っているR社の採用システムについて不満があると言っている

具体的には

R社は求人サイトと面接管理の担当者が違う

W社は説明会やイベントを別会社に担当させている

を挙げていました。

<2>山田の所感

W社の担当者はA社の要望に応えていない

W社の担当者は理解不足→サイトからはA社のイメージが伝わっていない

W社の面接管理システム担当者は細かいことに気づいていない

以上です。

今後の営業方針について一度打ち合わせをお願いいたします。

山田

 不満の具体例として、担当の違いや別会社になっている件を挙げていたので、タイトルを不満として、「具体的には…」で説明につなげました。

 また、担当者の理解不足でA社のイメージが伝わっていないというのは、「担当者の理解不足」も意見ですが、「A社のイメージが伝わっていない」というのも意見であり、意見の根拠も意見になっていることに注意が必要です。ここでは、根拠となっている「サイトからA社のイメージが伝わってこない」という意見を一段下げて表現しました。

 意見を書くことは悪いことではありません。しかし、上司との打ち合わせの中で、同じ事実を前にして上司は違う所感を持つかもしれませんし、それこそが上司との打ち合わせの大きな目的でもあります。よって事実と意見は明確に区別して情報提供することが大切なのです。

◇◆◇

 「事実と意見をわける<基本>」でも述べたように、ビジネスの場では、自分に都合の良い情報を「事実」のように扱ってしまいがちです。また相手に、根拠のない自分の「意見」への共感を求めがちです。トラブルを避ける、あるいは交渉で相手を説得するためには、「事実」と「意見」を明確に分けて扱う必要があるのです。

 次回のテーマは「モレなく考える」です。モレなく考えるための「フレームワーク」についてもご説明します。

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苅野進(かりの・しん)

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子供向けロジカルシンキング指導の専門家学習塾ロジム代表

経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら

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