【元受付嬢CEOの視線】受付嬢はここが辛い 陰口を叩かれ、這いつくばってでも出社

2019.8.22 07:40

 私は毎年夏になると楽しみなことがあります。それは高校野球です。1試合1試合を全力で戦い、数々の奇跡やドラマが生まれる夏の甲子園。こんな猛暑に球児が頑張っていると思うと、私も炎天下のアポを頑張れます(笑)

 私は中高6年間テニス部で汗を流しました。今振り返ると楽しいこともあれば、結構辛い思い出も多かったなと思います。しかし、そんな辛い思い出を共にした仲間だからこそ生まれる絆もあります。

 受付嬢時代を振り返っても同じことが言えます。受付嬢という仕事はとても素晴らしい仕事で、今でも「戻りたい」「少しでも受付嬢の仕事、やれないかな」と思うくらいです。しかし、嫌な思いをしたことがないかというとそうではありません。今回はその中から、今だから言える「受付嬢って辛い」と思ったことをお話しいたします。

「受付嬢のくせに…」

 まず辛かったこととして一番先に頭をよぎるのが「受付嬢に対する偏見」です。受付嬢は固定的なイメージを持たれやすい職業です。例えば、「役員としか口を利かない」「受付嬢はお昼を食べない」などちょっと笑えるようなものから、理不尽な偏見までありました。

 理不尽なことではもちろん嫌な思いをしました。小さなことでいうと、会議室の予約を忘れていた社員が保身のために、そのミスを私たち受付担当者の取り忘れのように上司に伝えるといったことです。“濡れ衣”を着せられた経験は1回や2回ではありませんでした。

 それ以外にもありました。私は受付嬢の時から役員の方の会食などに同席させていただいていましたが、それを快く思っていなかった社員からは、「受付嬢のくせに、役員と会食の同席なんて生意気だ」と陰口を叩かれていました。しかも、それを私本人ではなく他の受付スタッフに言うのです。直接言われれば、説明し、誤解があればそれを解き、納得していただける対応ができたかもしれません。しかし、第三者に伝えられると、誤解が解けない上に、受付スタッフ同士の空気感やチームワークにも影響が出てきます。これはとても悔しかったです。

 私はとにかく直接言われないことに関しては耳に入れないようにし、自分の仕事を全うすることが一番の解決策だと思いました。そしてそれまで以上に自分の仕事にプロ意識と誇りを持つように心がけました。

這いつくばって出社 受付嬢はカウンターを死守

 受付という場所は、ご来客の方々を最初に迎える場所です。ですから、離席することは許されません。会社の営業時間よりも早く出勤し、身支度と受付周りを整え、完璧な状態で迎えなければなりません。そんな受付の仕事をする中で2つ印象的な出来事がありました。

 1つ目は、後輩の受付嬢が急性胃腸炎(今でいうとノロウィルスのような症状)にかかっているのに、這いつくばるようにして出勤してきたことです。受付嬢はシフト制です。早番・中番・遅番といったポジションをシフト制で回しているのですが、中番と遅番はどうしても体調が悪ければ、会社に連絡をし、遅刻やお休みすることができます。しかし、早番というのは代わりがいません。早番が会社に行かなければ、会社の受付はオープンできないのです。

その当日、私は中番でしたが、早番で出勤していた彼女の姿を見て「連絡くれれば、もっと早く出勤したのに…! 今すぐ早退して休息をとって!」と伝えました。いわゆる「瀕死」に近い状態でした(笑) 彼女は体調が悪すぎてそこまで頭が回らず、何としてでも受付をオープンしなければいけないという使命感でいっぱいだったようです。

 もう1つは、東日本大震災の日の出来事です。私は当時、ビルの17階にある受付にいました。あの震災では、私も経験をしたことがないほどの揺れを感じました。「ビルが折れる!」と本気で思ったほどです。しかし、次に頭をよぎったことは「お客様の安全」です。幸い、その日は来客が少なく、被害に遭われたお客様もいらっしゃいませんでした。打ち合わせは即中止となり、帰社されていきました。

 お客様が帰られた後ようやく、「私たちはどうなるの? 社員のみなさんは避難していたりするのでは!?」と思い始めました。というのも17階は来客フロアのため、社員が避難しているかどうかを知ることができなかったからです。後から知ったのですが、17階以外にいた方々はすでに全員避難していたそうです(笑) その事実を知った時点では揺れも収まり、冷静さを取り戻していたので「誰も受付のことは心配してくれないのか!」と思ったくらいでしたが、これも受付嬢の宿命なのかと感じた出来事でした。

ランチもゆっくりできず ◯◯に縛られる受付嬢

 受付嬢が縛られるのはズバリ「時間」です。これまで辛かったことを2つ挙げてきましたが、実はこれが一番辛かったことかもしれません。

 受付嬢はとにかく時間に縛られています。受付の営業開始時間が「9時」と決まっていれば、9時を1分過ぎてもいけません。また、来客はたいてい、1時間のうち「00分」と「30分」という2回のピークを迎えます。そうすると、必然的にお昼休みを1時間取ることも難しくなるのです。

 00分の来客のピークが落ち着いた頃にお昼休みに入り、次の00分のピークが来るまでに受付に戻ります。もしかすると、これが理由で「受付嬢はお昼ご飯を食べない」というイメージを持たれているのかもしれません。OLの楽しみのひとつと言われる「楽しくて美味しいランチ」に受付嬢はありつくことができません。よって、誰かと一緒に食べに行くことも難しく、受付嬢のランチは地味になりがちなのです。

 また、「受付にいること自体が業務のひとつ」とされるので、来客が来ようが来まいが受付にいなければなりません。「ちょっと病院に行きたいから抜ける」や来客が列をなしている時間帯はトイレにもいけません。

 今はシフト勤務でなくなり、仕事とプライベートの時間の区切りはなかなか取れませんが、自分で時間をコントロールすることはできるようになりました。受付嬢時代はシフト勤務が当たり前の働き方だったので、当時はさほどストレスを感じていなかったように思いましたが、振り返ってみると結構辛かったな(笑)と思ってしまいます。

 今回は受付嬢時代に辛かったことを3つに絞ってお話しさせていただきました。どんな仕事にも辛いことはつきものです。しかし、その辛いことをどう解釈し、自分で解決・消化して行くかが重要だと思います。

 そして、辛いことよりも圧倒的な楽しさや、自分の仕事に持てる誇りが増えれば、辛いことはさほど気にならないものです。辛いことを減らす努力も大切ですが、それが難しい場合は「楽しい」「誇らしい」と感じるシーンを増やすのも解消法のひとつではないでしょうか。

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橋本真里子(はしもと・まりこ)

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ディライテッド株式会社代表取締役CEO

1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら

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