【今日から使えるロジカルシンキング】あなたならどうする? 経営会議で役員から2種類の資料を受け取った

2019.11.28 07:00

第15回 伝わるプレゼン〈応用演習〉

 ビジネスにおけるプレゼン・コミュニケーションでは、相手に「動いてもらう」ことが目的です。状況を理解してもらうために説明をしても、相手は自分が思っているほど同じような行動には結びつきません。「~をして欲しい。なぜなら~」というように、相手が「何を」すればよいのかを明確に表現することが大事です。(第13回でその基本を学びました。)

 こうした基本をふまえて、3つの問題に解答してみましょう。問題は進むにつれて複雑になっていきますので、チャレンジしてみましょう。

問題1

 次の発言を「発言者の意図」と「根拠となっている情報」に分けてください。

また契約書を1つ紛失したんです。もちろんコピーを取るようにしているので、普通は内容の確認はできるんですけどね。でも今回はコピーが残っていないみたいなんです。原本を保管庫に入れる前にコピーを取っているはずなのに。前もあったんですよね。誰が受け取ったかもわからないんです。だから契約書の保管作業はダブルチェックしたほうがいいのに。お客さんに連絡して、お客さんがもっている契約書のコピーを取って保管するしかないですよね。前もそれで対応したんです。何度同じこと繰り返すんですかね。この会社やばくないですか? ミス多すぎですよ。

問題1の解説 共感してもらうだけでは伝わらない

 発言者の怒っている気持ちは伝わってきますが、ビジネスマンとしては「現状を改善する」ことが目的です。居酒屋で「ホントやばいよね~」と共感してもらって溜飲を下げて満足しているようではいけません。

 「どんな問題が起きたのか」というのは事実として報告すべきものです。しかし、どうやら何度も起きている事案のようなので、「どうすればよいのか?」という「意図」を明確にして、相手は許可すればよいのか、サポートをすればよいのかを考えやすくしなければならない段階です。

問題1の解答

発言者の意図:

契約書のダブルチェックシステムを構築する

根拠となる情報:

保管・コピーの作業が1人で行われていて、ミスが繰り返されている

 発言者は、意図を明確に持っているにもかかわらず、余計な情報を盛り込みすぎて伝わりにくくなっていますね。

「契約書のダブルチェックシステムを構築するべきです。なぜなら、保管・コピーの作業が1人で行われていて、ミスが繰り返されているからです」

 とだけ表現すれば「伝わる」のです。伝わるというのはダブルチェックシステムを構築すべきかどうかを受け手が検討するように「動く」ということです。

 発言者が途中から感情的になってしまい、受け手としては「そうだね。この会社はやばいね。あなたは頑張っているのにね」と「共感しておけばよいのか」と誤った方向に「動いて」しまう可能性が大きい話し方だと言えます。(共感してほしいというのが一番の目的なら成功かもしれませんが。)

問題2

 あなたが次の2つの資料を受け取ったとします。どのような行動をとりますか?

資料1: Aという商品がアメリカで流行している

資料2: 日本とアメリカはこの分野では趣向が似ている

問題2の解説 「当然」は「当然」ではない

 プレゼンをしている側は、「当然」と考えてしまうことも、受け手側は同じように考えるとは限りません。以下の回答は、ある経営会議で複数の役員に出してもらったものです。あなたが発表者だったとしたら、「そんなつもりはなかった」と考えるものもあるでしょう。

問題2の解答例

解答例1:

日本でも流行するから、すぐに代理店契約を結ぶべきだ

解答例2:

商品Aについてはもう間に合わないだろうから、次の流行を探るべく調査チームを送る

解答例3:

このような情報にすぐに対応し、似た製品を生産できる工場を探す

 資料となっている事実はあくまで結論を出すための事実です。常に「そこから言いたいことは何か?」まで考えることが必要です。この例では、そこまでしっかりと提案しないと、他の誰かに任せてみようと判断され、チャンスを失うことにもなりかねません。

問題3

 次の人事部からのプレゼンテーションを読んで、「意図」を実現するという視点で添削してみましょう。

新人が3年で辞めてしまうという傾向は我が社でもよく見られます。新卒の採用コストを考えると看過できるものではありません。近頃の若者は会社に求めるものが変わってきているといいます。教育・給与など我が社の人事制度は40年ほど前からほとんど変わっていないので、新しくすべきです。

問題3の解説 「意図」は明らかですが…

 「古い人事制度を新しくすべき」という「意図」は表明されていますが、このような「総論賛成」的なものは、実行フェーズでの様々な制限が問題になるがゆえに実現していないものです。よって、総論賛成の企画書から進んで具体的にどのようなリソースが必要なのかを明らかにすると、実際に企画が「動く」議論をすることができます。

~という企画です

   ↓

~という企画を実行したいので、みなさんに○○○をして欲しい

問題3の解答例

 解答例: プレゼンの最後に以下を追加する

例1:

つきましては、同業者の人事制度改革に実績のあるコンサルティング会社に依頼する予算を承認して頂きたく。

例2:

つきましては、人事部と各部署からの応援人員からなるプロジェクトチーム立ち上げの許可を頂きたく。

例3:

採用上の競合であるB社の人事制度を参考に、新しい若手教育制度を考えましたので、実行の許可を頂きたく。

「どう動くか」も同時に考える

 「若手は情報を集めるのが仕事であり、考えるのは上の仕事」という考え方から卒業することがみなさんが付加価値を出せる人材へと成長する必須の第一歩です。「この情報・現状把握からどう動くべきか?」という視点を常にもって過ごして下さい。

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苅野進(かりの・しん)

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子供向けロジカルシンキング指導の専門家学習塾ロジム代表

経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら

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