【今日から使えるロジカルシンキング】大人もやりがちな子どものような「つまみ食い」

2020.2.20 07:03

 第21回 1歩目に最大限の注意を

 ロジカルシンキングの最初の一歩は「情報を正確に読む」ということです。ある情報を目の前にして、自分にとって都合の良い部分のみをつまみ食いし、都合よくつなぎ合わせて解釈することは、自分以外の人にとっては「納得感がない」、つまり「論理的ではない」と判断されて、受け入れてもらえない行為です。

 「セレクティブリスニング」や「シニカル・オフェンシブリスニング」を避ける技術(第19回)というのは、ロジカルつまり相手が納得しやすいコミュニケーションの大前提なのです。

 子どもが陥りやすい“罠”

 私の運営する学習塾ロジムで実際に遭遇する、子どもの興味深い例をご紹介したいと思います。次の問題は小学1年生向けの問題です。

カラスが4羽います。そこに新たにカラスが8羽飛んできました。さらに3回「カァー」と鳴きました。そうするとカラスが4羽やってきました。いま、カラスは何羽いますか?

 答えは「16」ですが、驚くほど多くの子どもが「19!」と答えるのです。

 「3回鳴いた」を足しているのです。「今は算数の問題だ」「計算をしよう」「問題に出てくる数字はなんだ?」という強い意識が働くようです。数字以外の情報は「いらないもの」と考え、「数字だけが重要」という偏った視点で「セレクティブ」に読んでしまうのです。

 解法ではなく、「問題文自体を正確に読み取る」という段階でつまずくのは幼いからではありません。前回の解説のように、人間の思考にはそういう傾向があるからです。意識しなければ、とくに緊張する場面でその傾向が強く現れるのです。

 次の問題も、学習塾の小学5年生が実際に取り組んだものです。

たかしくんが算数の問題を解いています。

《問題: 1312131213121312…と数字が並んでいます。30番目までの数字をすべて合計すると、いくつになりますか》

たかしくんは次のように解いて答えを出しました。

◆◆◆

「1312」がくりかえしならんでいる。4つで1つのかたまりだから、30番目までにこの4つのかたまりは、30÷4=7あまり2となる。だから、7つある。

1つのかたまりは、1+3+1+2=7なので、これが7つあるということは、合計で7×7=49となる。

しかし、あまりが2あるので、このあまりを足さなければならない。

だから、求める合計は49+2=51となる。

答えは51だ。

◆◆◆

さて、たかしくんの答えは正解でしょうか。

もし間違がっているとしたら、「どこが間違っているのか」「なぜ間違っているのか」「どのようにして解けば正解になるのか」について、たかしくんに説明してあげてください。

 解答欄に書かれる最も多いものはこちらです。

30÷4=7あまり2

7×7=49

49+1+3=53 →答え 53

 この問題は「たかしくんになぜ間違えているかを説明してあげてください」なのですが、「あなたが正しいと思う答えを書きなさい」と自分に都合よく変えてしまうのです。この問題に取り組ませ、解答用紙を回収したあとに、「みなさんが取り組んでいた問題はなんですか?」と質問をすると

 「30番目までの合計を求める!」

 と答える生徒が少なくないのです。問題文全体の中から、自分がとっつきやすい部分だけを抜き出して、それが問題なのだと思い込んでいるのです。

 「最後の見直しは問題文の指示の確認」

 この解法であってるんだっけ? この案はうまくいくだろうか?

 私たちは日々「問題解決」に取り組んでいます。みなさんもロジカルシンキング・論理思考を身につけて、「より確率の高い」解決案を選べるようになりたいと考えているはずです。しかし、その前の「私が解こうとしている問題は正しいのか?」を考える必要があります。

 問題設定は、それはそれで奥深いものなのですが、ビジネスパーソン、特に若手の方にとってはまず、「上司や顧客からの要望・指示を正確に読み取れたか?」という1歩目に最大限の注意を払って欲しいのです。

 子どもや若手のビジネスマンは、「打ち手」に関して引き出しが少ないために、問題自体を「自分でも簡単に解ける問題」にすり替えてしまいがちです。

 私の学習塾では

 「ちょっとでも行き詰まったら問題文を読みなおしなさい」

 ということと

 「最後の見直しは問題文の指示の確認だよ」

 というアドバイスをしています。

 さて、さきほどの問題で「本当に」考えてもらいたいのは

「たかしくんはどこを間違えているのか?」

「たかしくんはどのような勘違いをしているのか?」

「たかしくんが理解しやすい説明はどのようなものか?」

「たかしくんが理解するのに役立つ例はどのようなものか?」

 という「相手に伝わる」説明の工夫です。「相手の立場に立って」考えるトレーニングです。

 ちなみに、子どもたちの最初の「説明」は次のようなものです。「たかしくんは間違えています。正しい答えは53だからです」

 いかがでしょうか。このタイプの説明は社会人でも多く見られますね。間違えている人に対する説明が「あなたの答えは正しい答えと違うから」というのは、「なぜ」に対する説明になっていません。「トートロジー(同語反復)」というものです。

 ロールプレイがカギ

 これは、聞いている側に立つ機会がないとなかなか直らないクセです。小学生たちは、先生役と生徒役に分かれるなどのロールプレイを通じて、「相手が理解できる」というロジカルシンキングの基礎を学んでいくのです。

 そもそもそういった学びの段階に到達するためには「問題を正しく受け取る」ことが大前提です。「簡単なことだ」と聞き流していると、問題の重要な前提条件などを見落とすこともあるでしょう。問題に取り掛かる前に問題自体をしっかり確認する習慣をつけてくださいね。

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苅野進(かりの・しん)

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子供向けロジカルシンキング指導の専門家学習塾ロジム代表

経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら

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