【最強のコミュニケーション術】なぜあなたの謝罪では許されないのか 相手の怒りを緩和できない4つの理由

2020.10.6 07:04

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第21回は「なぜあなたの謝罪では許されないのか」がテーマです。謝ったのに態度を変えない人に対して「心が狭い」「こちらは謝ったのに許さないのは相手が悪い」など、怒りを感じてしまったことはありませんか。コミュニケーションには、ちょっとした言い回しや伝えるときの表情、伝える順番などでニュアンスが変わってしまうという特性があります。謝罪が必要になるようなシーンでは、微妙なニュアンスにも敏感になってしまうだけでなく、感情的な反応をしやすいという悪条件が揃います。なぜ謝ったのに相手の怒りを緩和できなかったのか。よくある4つの理由と対処法についてご紹介します。

1.「繰り返しの裏切り」だと思われている

 謝罪には相手の怒りを緩和し、許しの感情を引き出す効果があります。しかし相手を怒らせたのが初めてではない場合、特に、同じことで怒らせてしまった場合は、許してもらうまで時間がかかるかも知れません。

 例えば、過去に頼まれたことを忘れてしまったことが複数回あり、今回もまた忘れてしまったとしましょう。このような場合「またか」と思われてしまうので、謝ってもすぐに許してもらうのは難しいでしょう。最悪な展開は「キミはいつも言われたことを忘れるじゃないか」といった言葉に反応してしまうことです。「いつもではないのに」と不当な評価に腹を立てたり、僅かな言い回しの違いを主張してしまったりすると、さらにこじれてしまいます。

自分の子供や家族を想像

 このケースの対処としては、相手の「軽んじている」という思い込みを緩和することがポイントになります。謝罪の言葉に加えて、決して軽んじていたわけではないということを伝えましょう。どれだけ大事に思っていたか、自分の言葉で丁寧に説明してみてください。合わせて、再発防止のためにどうするか、今後の対策も伝えるとよいでしょう。

 「謝っているのに責めるなんて」という気持ちになってしまった場合には、自分の子供が何度言っても宿題を忘れて叱っているシーンを思い浮かべてみてください。「この前も忘れたじゃないか」「いつも口ばっかり」など、責めるようなコミュニケーションをとりたくなりませんか。相手を心配して良くなってほしいのに、つい感情的になって批判的な言い方をしてしまう。これは誰にでもある、残念な特性だと考えてみましょう。そうすることで責められているという現象をいったん横に置くことができ、関係修復を優先できます。

2.「表面的な謝罪」だと思われている

 謝罪の言葉は口にしているものの、心から反省しているように感じられない。そんな表面的な謝罪だと思われてしまうケースもあります。例えば、謝罪を求められたことに応じて「どうもすみませんでした」と謝ったとしましょう。これが表面的な謝罪だと感じられてしまった場合「あなた達の対応はなっていない」といった態度に関する批判に問題がすり替えられ、相手の怒りが増幅することがあります。

 「こちらは謝っているのに」といった感情は表情や言動に出やすいものです。ちょっとした行き違いから二次クレームに発展してしまうこともあるでしょう。

「思いやり」が自分のストレスをも軽減

 表面的な謝罪だと思われてしまうケースの対処法としては、短いセンテンスで「謝った」と思ってしまわずに、長い文章で、時間をかけてお詫びをするのがお勧めです。長く話そうと意識すれば「ご心配をおかけしてしまいましたよね」「ご不便をおかけしてしまいましたよね」といった、相手の気持ちに寄り添う言葉も出てきますし、「今後はこのようなことがないように××をしていきます」「おかげさまで、改善点がわかりました」といった今後に繋がるような言葉も見つかると思います。

 昨今、過剰なクレームをつける人たちがいるため、早い段階で「クレーマー?」と決めつけたくなってしまうことも増えたと思います。私たちはどうしても自分を守るような思考を自動的にしがちです。一瞬でいいので、怒りの根本にある悲しみを想像してみるとよいでしょう。大切に扱われなかった、期待していた良好な関係を築けなかったといった残念な気持ちを裏返せば「大切に扱ってほしかった」「良好な関係を築きたかった」ということになります。怒りへの対処は嫌なものですが、この部分に対処すると考えれば少し気が楽になるのではないでしょうか。怒りをぶつけてくる相手を思いやるのは難しいと思いますが、自分のストレスを軽くするためにも試してほしい対処法です。

3.「保身の態度」だと思われている

 謝るときには、どうしてそうなってしまったかという事情説明が必要です。しかし、説明が、相手には言い訳や釈明に聞こえるというケースも少なくありません。

 例えば、約束の時間に遅れてしまったとします。皆さんはどのように謝るでしょうか。「すみません、電車の遅延で」など、遅れた理由についての説明からはじめてしまうと、言い訳と感じられてしまうことがあります。ちょっとした遅刻という些細なことでも、最悪な場合には「この人は潔く謝らず保身をしたい人なんだ」と判断されてしまうことがあります。大したことはないと感じるミスのときでも、保身だと思われないよう謝罪したいものです。

脳が自分を守ろうとするときの思考

 対処法としては、謝る順番を意識し、事情説明はなるべく後ろに持っていくというのがお勧めです。まずはお詫びの言葉を述べ、自分が悪かったとハッキリ言葉で伝えます。その後に「外で待っていて、暑かった(寒かった)ですよね」など相手を気遣うようにしましょう。説明はそれからでも遅くありません。

 「このくらいで大げさ」など、自分がやってしまったことを軽く考えたくなると思いますし、「自由に時間を潰してくれたらよかったのに」と相手を非難するような気持ちになってしまうこともあると思います。このような思考は、脳が自分を守るために起きやすくなっているのだと考えてみてください。

 自分に非があるのを棚にあげて責めるような態度は、相手を二度傷つけます。大事にされていないという気持ちは少しずつ堆積して、良好な関係を不安定にします。「許してもらえるだろう」と軽く考えないようにするのは、相手のためだけでなく、自分のためでもあるのです。

4.「事態の修復」について言及していない

 言葉や態度で反省の気持ちを伝えるだけでは解決しない問題もあります。例えば、仕事で相手に損害を与えてしまったとします。心から謝罪して、相手に反省の気持ちが伝わったとしても、与えてしまった損害をどうするのかということに言及しなければ許してもらえないケースもあるでしょう。起きてしまった被害をどのようにリカバリーするのか。場合によっては損害賠償などについても話し合う必要も出てきます。

覚悟を決め「補償」に言及

 対処法としては、謝罪とセットでどのように被害を回復させるのか、具体的な方法を伝えるというのがお勧めです。補償についてまだ決められない段階であれば、そのことを正直に伝えることで、補償の気持ちはあるということが伝わります。

 自分の責任について認めること、まして補償について言及するのは勇気が要ることです。会社に迷惑をかけることもあるでしょうし、一時的に評価が下がることもあるでしょう。しかしきちんとした対応をすることに伴うマイナスよりも、うやむやにするような態度で信頼をなくすことのほうがマイナスです。覚悟を決めて誠実に対応することは、目の前の相手のためでもありますが、自分の将来のためでもあることを思い出し、少しでも心を軽くしてあげてください。

まずは自分の過失や責任に向き合う

 謝罪には相手の怒りやショックを緩和する効果がある反面、責任の受容や補償が伴うこともあります。そのためしっかりした謝罪を心がけないと、無意識に保身や釈明と思われるような謝罪の仕方をしてしまうことも少なくありません。謝罪のシーンでは、使う言葉、態度、表情などから、本当の謝罪なのかどうかを見極められます。謝る前に、自分の過失度合いや責任の有無について考え、自分が悪い場合には反省の気持ちがしっかり伝えられるように心がけましょう。

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藤田尚弓(ふじた・なおみ)

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コミュニケーション研究家株式会社アップウェブ代表取締役 企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら

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