関西の起業は東京のたった1割、反転攻勢へメガバンクが登場

2020.10.8 06:50

 創業間もない企業「スタートアップ」の起業で、関西は首都圏のわずか10分の1程度と大きく出遅れている。ヒト・モノ・カネの集積で水をあけられ、スタートアップという言葉すら浸透していないと指摘されるのが現状だ。この状況を受け、メガバンク2行は大阪、兵庫で相次いで支援拠点を整備。新型コロナウイルスの感染拡大による経済停滞で新興企業への支援が細る懸念があるなか、関西の巻き返しにつながるか注目が集まる。(岡本祐大)

 「オール関西」で支援

 三菱UFJフィナンシャル・グループは令和3年2月に大阪市中央区で「イノベーション創出拠点」を設立すると発表した。近鉄グループホールディングスや関西電力、オリックスなど関西に地盤がある大手企業も会員企業として参画し、観光産業をテーマに社会課題を提案してもらい、スタートアップの技術で解決できるか模索する。スタートアップにとっては大手との協業がビジネスチャンスにつながる。

 三菱UFJ銀行の谷口宗哉専務執行役員は「これまでオール関西でスタートアップを支援するというメッセージを届けられていなかった。ハブ(拠点)にできるよう環境づくりを進めていく」と力を込める。オープンを待たずに今年11月から事業を開始する考えだ。

 三井住友フィナンシャルグループは9月1日、傘下の三井住友銀行神戸本部ビルに「hoops link kobe(フープス・リンク・コウベ)」をオープンした。東京・渋谷に続く2カ所目で、施設内には兵庫県の創業支援拠点「起業プラザひょうご」が移転。スモールオフィスや共同で利用できるワーキングスペースなどを構える。会員数はすでに80人近くに達しており、交流イベントを開催するほか、先輩起業家からのアドバイスも受けられるようにする。

 三井住友銀行の角元敬治専務執行役員は「スタートアップには経営や財務に関する人材が少ない。資金面に限らない支援ができれば」と話す。メガバンクのネットワークを生かし、人材紹介や販路開拓、ビジネスマッチングといった課題に対応できるのが強みだ。

 質、量ともに見劣り

 メガバンクが相次いで関西のスタートアップ支援を打ち出す背景には、関西での起業数が首都圏に比べて大きく見劣りする現状がある。「スタートアップへの融資による短期的な収益も大事だが、市場そのものが育たないといけない」(角元氏)と危機感は強い。

 スタートアップのデータベース運営や人材紹介を手掛ける「フォースタートアップス」によると、東京都には8400社を超えるスタートアップが所在。一方、関西は大阪府531社▽京都府145社▽兵庫県103社-などで、近畿2府4県を合わせても東京の1割にも満たない。

 経済産業省の支援事業「Jスタートアップ」でも、全国で選定した139社のうち東京都内の企業が100社を占め、近畿2府4県は11社にとどまっている。これは数だけでなく、質の高い有望企業も少ないことを示している。

 好循環生み出せるか

 市場規模や、スタートアップに必要なヒト・モノ・カネの集積で、首都圏と関西では大きな差があるとする。「地方ではスタートアップという言葉そのものが浸透していない」。オンラインでキャリア相談サービスなどを手掛ける「Compass(コンパス)」(神戸市)の大津愛社長はこう指摘する。3年前の起業時、金融機関からの査定が厳しく資金調達に苦労し、一時は東京での起業も検討したという。

 ニッセイ基礎研究所の中村洋介主任研究員は「ベンチャーキャピタルの投資をみても東京一極集中は明らかだ」と指摘。ただ、2025年大阪・関西万博が控えていることや、政府が「グローバル拠点都市」の一つとして関西を選定したことなどから「スタートアップを育成する機運は高まっている」とみる。

 そのうえで、成長した企業が新たなスタートアップへ投資するといった好循環を生み出す「エコシステム」を形成できるかが、関西でのスタートアップ盛り上がりに重要だと強調している。

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