【ブランドウォッチング】アルペン スポーツアパレル黄金時代の果実を手にするのは誰か

2021.7.27 06:00

 実は、スポーツ用品店全般があまり好きではありませんでした。個人経営の小さいお店、大資本のロードサイド店全部ひっくるめて魅力的なお店に出会った記憶があまりないのです。もちろんスポーツ自体は全般大好きで、特にゴルフ、テニスなどはかなりコアなプレイヤーの部類だとの自負がありますし、用具に対しても相応のこだわりをもっていると思っています。

 とすれば本来スポーツの道具やウエアをゆっくり吟味できるスポーツ用品店は楽園であって良いはずなのですが、どうにも雑然としていたり素っ気なかったりで他の業態に比べて買場としての魅力に欠けるように感じてしまうのです。

 そう考えてみると、店長さんもお店のスタッフさんもいい色に日焼けしてスポーツの醍醐味に精通している分、魂はフィールドやコート、コースに置いてきましたという雰囲気がしなくもありません。少なくとも、ゴタゴタと飾り付けずとてスポーツの価値にそん色はないだろうというようなぶっきらぼうさを感じるお店が多いのです。

 とは言え、そんなスポーツ用品・アパレル小売の世界も、少しずつですが確実に変化が起きつつあるように感じます。都心の目抜き通りには最先端セレクトショップもかくやというオシャレで尖ったコンセプトのスポーツアパレルのお店も目に付くようになりましたし、そもそも街でスポーツウエアを普段着として着る人を多く見かけるようになりました。

■停滞するスポーツ用品アパレル市場に芽吹く黄金期の気配

 そんな中、スポーツ用品販売大手のアルペンが好業績から全従業員に総額7億円の一時金を支払ったとの報道があり、コロナ禍でしかも停滞感のある業種の典型と感じてきたスポーツ用品量販業態だけに、意外性のあるニュースと感じました。実際にスポーツ用品市場規模自体は、1兆5000億円程度で停滞気味です。(出典:矢野経済研究所)

 そもそも少子高齢化の上、スマホなどとの競合でレジャー参加率全般の長期低下傾向が顕著なこともあり市場環境は、なんとも重苦しいことこの上ありません。さらには、アマゾンなどネット販売との競争やユニクロ、ABCストアなど強いプレイヤーのスポーツアパレル領域への参入なども厳しい要件です。

 実際に、メーカー、小売りともに業績がパッとしない老舗も多く、不調なプレイヤーが買収されるなどしながら再編され、なし崩し的に量販大手はいくつかのグループに集約されてきたというのが近年の歴史であるように思われます。

 一方で、スニーカーブームなどはまさに先駆け的な事象ですが、実はスポーツウエアには黄金期が到来しているようにも感じるのです。近年開発された、高機能な繊維は、ストレッチ性が高く、通気性あるいは保温性が高く、撥水性やUV性能などはまさにスポーツウエアにこそ最適です。実際に着てみれば、競技や苛酷な環境を前提にした高性能、快適性はスポーツ以外の瞬間にも実は恩恵が多いのです。

 特に、在宅勤務が多い中で、最も快適に仕事に集中できる服装を選ぶと自然とジャージやスウェットなどになってしまうというのも“あるある”ではないでしょうか。未来のビジネスマンは、スタートレッククルーのユニフォームのような体にピタッと密着し伸縮性や体感温度や湿度調整機能に優れる服を着るようになるのではないかなと漠然と思うことが多いのですが、考えてみればそんな高機能な洋服はすでにスポーツウエアの世界に実現しているわけです。

 しかも素材の進化は、発色の良さにも貢献しているようで、毛や綿などの伝統的自然素材では表現できないようなビビッドな発色やパキッとした柄表現なども年々可能となっており、デザイン性の面でも急速にアパレルブランドレベルの実力を示し始めたスポーツウエアメーカーも少なからずの印象です。

 スポーツとファッションの融合のコンセプトは2000年代のプラダスポーツなどに先駆的だった気がしますが、当時はとにかく高価でした。それを考えればファッションとしての実力が上がり、競技や苛酷な環境でのパフォーマンス向上までが考慮された現代のスポーツアパレルはコストパフォーマンス的にもかなり納得ができるアイテムであるように思います。

■実用的で魅力的な公式オンラインショップ

 アルペンの好業績(2021年6月期の業績予想で、売上高、最終利益ともに過去最高)を見ますと、そんなスポーツアパレル大発展期に勢いあるブランド、製品をいち早く上手く取り込み、アピールした効果が大きいように思います。特にゴルフやアウトドア領域での好業績に貢献したとのことですが、両方ともまさに機能性とデザイン性を高次元に進化させることでの進化が激しいカテゴリーです。

 でもそのアルペンもちょっと前を振り返れば2018年7月には上場来初の赤字に転落し、不採算店舗の閉鎖やリストラなどを行わざるを得ない苦境であったのです。むしろそんな状況はスポーツ用品アパレル量販業態の長期低迷という一般的なイメージにしっくりするくらいなのですが、それだけに好業績に意外感があるとも言えるのかもしれません。

 あらためてアルペンの取り組みを見ると、際立って使いやすいのが、専用アプリなどからアクセスできるオンラインショップの充実度です。メーカー別注商品や自社企画商品など独自のラインアップの豊富さもさることながら、特にセールのインパクトは大きく、例えば時期によっては同一ブランド商品を4点買うと40%オフ(しかもすでに値引きされているものはそこからさらに)などパンチがあり、数枚のお札で最新のスポーツウエア一式を揃えられたりします。

 EC,D2Cとすでに長い期間言われ続けているわけですが、実際にネット空間に魅力的な売り場を確立している企業は多いと言えないように思います。アルペンはそんな取り組みでも一歩先を行っていることは間違いないようです。

■ハウスブランドの整理でさらに大きなビジネスポテンシャル

 世の中、老舗と言えば聞こえが良いですが、ブランド価値の陳腐化に身を任せる事業者も少なからずの現実の中、なかなかの復活力だと言えるのではないでしょうか。やはりどんな厳しい市場でも勝ちの目は無いわけではないことに気が付かせてくれるように思います。

  そう言えば、少し前に創業者で当時の会長がわいせつ行為で逮捕されたとのニュースが世をにぎわせましたが、逆に言えば創業者がフラフラしていても上手く回るぐらい業務の委譲と組織が完成していたと言えるのかもしれません。

 ブランディングの視点では、認知の安心ベースがあってその上は売り場の実力勝負という印象で、必ずしもブランド力が高いとか評価されているとは言えないように見受けられます。実際にカテゴリーによって、「アルペン」や「スポーツデポ」、「ゴルフ5」などハウスブランドが乱立していて、取り留めがありません。今のところは、売り場やウエブ施策の草の根的積み上げの成果が出ての好業績ですが、ブランドの整理とブラッシュアップができればさらに大きなビジネスポテンシャルがあるように思います。

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秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

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ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら

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