【今日から使えるロジカルシンキング】負けるな、日本の物流会社! 「低質」アマゾンによる破壊は静かに進行している

2021.9.16 06:05

 2017年にヤマト運輸がアマゾンに対して行った値上げによって、アマゾンの荷物の取扱い業者が大きく変わったことはニュースになりましたね。当初7割近かったヤマトのシェアが3割弱へと減ったと言われています。代わりを担っている企業といえば、佐川急便などの名前を思い浮かべるかもしれませんが、現状はそうではありません。

 一部のアマゾンユーザーは最近お気づきだと思いますが、「名もなき」配達業者が担っています。物流大手や地域限定の中堅・中小物流会社に加え、個人ドライバーに配送を直接委託しているのです。簡単に言えば、荷物配達版のUber(ウーバー)です。

 配送用の車両さえ用意できれば、スマホアプリによって配送案件を受注できるのです。コロナでUber Eatsの需要が増え、それに伴い配達員が増えたというニュースは目にしたかと思いますが、それはネット販売の世界でも同じことが起きています。そして、こちらは既存業者が存在する点が大きな注目が必要なところなのです。(【関連】アマゾン、委託配送員1万人を突破)

「拒否反応」はローエンド型に付き物

 「アマゾンフレックス」と呼ばれるこの新しいシステムによる配送は、少し検索をすれば、ネット上には「配達が雑」「指定時間に来なかった」などのマイナス評価が目立ちます。この点はUberやUber Eatsに対する世間の反応に非常によく似ています。

 すでにタクシーや自社配送の出前が存在していましたので、それらと比較すると個人業者の質の甘さが目に付いたのでしょう。一種の拒否反応のような評価が多いのです。

 今回確認したいのは「ローエンド型の破壊的イノベーション」です。つまり、既存のサービスに対して質は低いけれども、安さなどの理由で顧客を奪い取っていくイノベーションです。

 アマゾンフレックスはたしかに既存の大手業者と比べて質が低いかもしれませんが、値段の安さ、そして何と言ってもアマゾン自身の便利さによって使われ続けています。単純に、高コストのヤマトから「自前の低コストの配送システム」へと切り替えたということです。

 ここで、ヤマトは質の高さでシェアを奪い返すことができるでしょうか? そこが難しく、徐々に破壊していくのがローエンド型の破壊的イノベーションです。

「質の悪い」アマゾンフレックスの精度がおのずと高まるワケ

 質が悪いと言われながらもスタートしているアマゾンフレックスですが、それでも大量の荷物は存在します。つまり、アマゾンフレックスは自らの仕事の質を高めるのに一番必要な「目の前の仕事」が存在するのです。大量の仕事をこなしていくうちに、経験により仕事の精度が高まっていきます。また、評価制度により質の良い業者が残っていくのです。

 この大量の仕事と評価制度によりいつのまにか、そして教育予算を大量にかけることなく一気に質を向上させ、いつのまにか既存業者を超えていくでしょう。

大勢の客によって良いネタを低コストで仕入れられるようになり、経験で腕も良くなっていった回転寿司の職人

大量のフィードバックにより、いつのまにか非常に顧客サービスが高まって人気になっていったUber運転手

 これらは、「既存のプロ」には及ばないと言われながらも、既存業者を破壊していったのです。

 ヨドバシカメラが運営するヨドバシ.comは、これに真っ向から対決すべく、自前の配達員を用意して「ヨドバシエクストリーム便」を展開しています。

 私は幸運にも対象地域内に住んでいるために利用できますが、たしかに速さも質も数段上です。しかし、日本特有の「高品質・低価格」をキープすることができるのかは疑問が残ります。アマゾンが自前システムを構築し、経験とシステムの好循環で一気に質を高めていくのと競争かもしれません。

「日本の会社には高度なロジスティクス技術がある」の危険性

 ローエンド型の破壊的イノベーションが始まると、なかなかその流れは止められないというのが歴史です。アメリカでは、そもそもの荷物配送サービスが貧弱だったこともあり、すでにアマゾンは国を代表する「配送企業」の座を伺っている状況です。日本的な思考ではおそらく「法規制」に訴えるのが最初の防御策かとは思いますが、それでも長くは持たないでしょう。

 かつてアマゾンにとって日本の物流が必須だった頃には、「日本の物流会社こそ日本のアマゾンになれたのに」と言われたものでした。今はそれどころか、アマゾンが世界最高レベルである日本の荷物配送業者にもなってしまう可能性が出てきています。

 「日本の物流会社は家庭向けの配送以外の高度な分野が存在する」というコメントも多く見られますが、それこそローエンド型の破壊的イノベーションに飲み込まれる企業の典型的な対峙姿勢です。

「自ら構築したシステムが誰かに破壊されるくらいなら、それは自分たちでなければならない」

 と考えられなければならないのです。

 私は海外で暮らしたり、海外との貨物のやりとりを通して日本の物流の質のとんでもない高さに感動し、その恩恵を受けてきたという実感があります。日本の生活環境の質の高さの屋台骨といっても過言ではありません。ぜひ、しっかりと乗り越えて、さらにシステムが世界へと広がっていくことを願っています。アマゾンは、確実に配送システムの外販を始める企業なので、日本の物流会社には負ないでほしいですね。

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苅野進(かりの・しん)

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子供向けロジカルシンキング指導の専門家学習塾ロジム代表

経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら

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