(上)VRの世界広がる未知の市場 「一家に1台。テレビ以来のイノベーション」

ゲーム新時代
仮想現実(VR)の市場拡大を見込んで、VRを体験できる施設が増えている=東京都新宿区

 ■「一家に1台。テレビ以来のイノベーション」

 かつて世界をリードした日本の電子ゲーム産業は、技術革新や国際競争で転換点を迎えている。非現実を体験できる仮想現実(VR)技術の開発が進み、ゲームの楽しみ方が大きく変わろうとしている。技術や競技性が鍵を握る「ゲーム新時代」に向けた業界の現状と展望を探る。

 険しい岩山が連なる荒涼とした風景が目の前に広がっていた。2010年、米サンタモニカにあるソニーのゲーム子会社の開発拠点。ソフト開発の最高責任者を務める吉田修平は、スタッフが手作りしたゴーグル型端末の画面に映る光景に衝撃を受けた。

 視点の移動再現

 「ゲームの世界に入り、自分の体が主人公になっている」

 映し出されたのはプレイステーション(PS)3用ゲーム「ゴッド・オブ・ウォー3」のプレー画面。下を向くと筋骨隆々とした“自分”の体が、顔を上げるとギリシャ神話をモチーフとしたゲームの世界が見える。吉田が驚いたのは、現実さながらに視点の移動を再現する技術だ。

 手作りの端末は、外部カメラで傾きや動きを捉え、ゲームを操作する既存のコントローラーと、視界を覆うゴーグル型のディスプレーを組み合わせたシンプルなものだ。頭を少し動かすだけで視点が変わり、違った角度から物が見える技術は、ゲームの仮想空間と現実の感覚との垣根を取り払うのに不可欠だ。

 人間の感覚器に働きかけ、コンピューターグラフィックスなど実際に存在しないものを、現実のように知覚させるVR。その技術革新が、ゲームの世界に迫っていることを吉田は確信した。

 “草の根”で始まったVRの研究は、2年後に正式な開発プロジェクトとなり、16年10月、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、PS4で仮想現実を体験できる端末「PSVR」を発売。今年6月には、PSVRの世界販売台数が100万台を突破した。

 「テレビ以来のイノベーションだ。VRを一家に1台という状況にしたい」

 SIE取締役で日本・アジア地域を統括する盛田厚はこう意気込む。盛田は、独自開発のブラウン管「トリニトロン」で、カラーテレビを普及させたソニー創業者、盛田昭夫のおいだ。

 もっとも、PSVRは国内で品薄が続き、まだ本格的な普及段階には入っていない。増産態勢を敷くのが遅れたためだ。今後、量産効果で低価格化が進むとともに、VRを活用したソフトのヒット作が出てくれば、盛田の言うように映像コンテンツの在り方を変える可能性もある。

 ゲームのVR化を急ぐのはソニーだけではない。バンダイナムコエンターテインメントは7月14日、東京・新宿歌舞伎町にVRを使ったアミューズメント施設をオープンした。「ドラゴンボール」「マリオカート」といった人気のアニメやゲームの世界を“体感”できるほか、超高層ビルの屋上から突き出た板の上を歩くなど、仮想空間ならではの体験ができるアトラクション15種をそろえた。VR部ゼネラルマネジャーの柳下邦久は「普段、ゲームをしない人にも楽しんでもらえる」と語る。

 スマホ向け“主役”も

 一方、韓国サムスン電子や米グーグルは、スマートフォンをVR端末の画面として活用し、ゲームや映像などさまざまなコンテンツが楽しめるサービスを日本や米国で提供している。普及台数が多く、初期費用も割安な「スマホVR」は、今後急速にVRの“主役”に躍り出る可能性もある。

 グリー取締役の荒木英士は「広く世界市場に届けられるスマホ向けVRコンテンツの開発を進める」と強調する。VRの世界には、関係者が創意工夫で切り開く新しい市場が広がっている。(敬称略)

 ■VRゲームが楽しめる主な施設

 ≪VR PARK TOKYO≫

 ・運営会社 アドアーズ

 ・開設時期 2016年12月

 ・場所 東京・渋谷

 ・料金 平日予約なし3300円など

 ≪SEGA VR AREA AKIHABARA≫

 ・運営会社 セガ

 ・開設時期 17年6月

 ・場所 東京・秋葉原

 ・料金 1アトラクション1500円

 ≪シブヤVRランド BY ハウステンボス≫

 ・運営会社 ハウステンボス

 ・場所 東京・渋谷

 ・料金 1時間2200円

 ≪VR ZONE SHINJUKU≫

 ・運営会社 バンダイナムコ

 ・開設時期 17年7月

 ・場所 東京・新宿

 ・料金 入場とチケット4枚で4400円

 ≪SEGA VR AREA ABENO≫

 ・運営会社 セガ

 ・開設時期 17年8月

 ・場所 大阪・阿倍野

 ・料金 1アトラクション2000円