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リチウムイオン電池、日本は中韓に苦戦 「川下」商売下手、弱み象徴

 ノーベル化学賞で注目を集めるリチウムイオン電池は、かつて日本のメーカーが世界市場で高いシェアを誇っていた。近年は中国や韓国勢との価格競争で苦戦。素材や部品など「川上」分野のものづくりに強みを持ちながら、より消費者に近い「川下」ビジネスで競合相手に後れを取る姿は、日本の製造業に共通する弱みを象徴している。

 ◆吉野氏も憂慮

 ノーベル化学賞の受賞が決まり、9、10日と記者会見をはしごした吉野彰旭化成名誉フェロー。「川上ビジネスは優位性があり大したものだが、川下は非常に下手くそ」。日本のリチウムイオン電池産業の現状をこう表現し、憂慮を示した。

 基礎研究で苦労し、開発研究で苦労し、製品化した後も売れなくて苦労する-。吉野氏は独創的な発明を事業として成功させるまでに突き当たる「3つの苦労」を指摘。その中でも、製品を世に出した後の苦しみが「精神的、肉体的にもきつい」と体験的に語る。

 世界の産業を現在牛耳るのは、大量の個人データを握り、消費者の好みに合った商品やサービスを提供するのにたけた「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業たちだ。「川下部分は全部『GAFA』に持って行かれている。日本にも匹敵するようなベンチャーが1つ、2つあればいいのだが」と吉野氏は唇をかむ。

 ◆中国政府は補助金

 吉野氏の発明を土台に、日本はリチウムイオン電池の開発で先行。1991年に世界で初めて商品化したのはソニーだった。だがソニーは収益低迷に苦しみ、スマートフォンなどモバイル端末用の電池事業を村田製作所に2017年に売却。その村田製作所も赤字脱却を果たせずにいる。

 かつて日本メーカーの独壇場だった電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池で近年急速に台頭しているのが中国勢だ。11年に創業したばかりの「寧徳時代新能源科技(CATL)」は、市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(東京)によると、18年の車載用電池の世界シェア(出荷容量ベース)で首位のパナソニックと接戦を演じた。

 中国政府は長期発展戦略「中国製造2025」で、EVやリチウムイオン電池を重要産業の一つに位置付け、補助金などの政策面から自国産業を強力に支援する。国内外の自動車メーカーには中国で販売するEVに中国企業の電池を使うよう奨励。ある日系自動車メーカーは「パナソニック製の電池を使いたかったが、政府の意向からCATL製を採用せざるを得なかった」と打ち明ける。

 ◆オールジャパン望み

 日本の製造業が世界市場で輝きを失っていく構図は、テレビやパソコンなどの家電や半導体で経験済みだ。「日の丸液晶」として政府が支えた中小型液晶パネル大手ジャパンディスプレイ(JDI)も、中国と台湾の企業連合の傘下に入る再建策をいったん決めた後も迷走を重ねている。

 リチウムイオン電池は今後も自動車向けを中心に需要が見込まれ、調査会社の富士経済によると、22年の世界市場は7兆3914億円へと拡大する見通しだ。業界では、その先の次世代電池として期待される「全固体電池」の研究も進み、3年後にはEVで実用化される可能性が指摘される。

 大阪府立大の辰巳砂昌弘学長(無機材料化学)は「日本が最も実用化に近いとされるが、今後もリードし続けるには、大学や企業、国が連携し、オールジャパンで研究の裾野を広げる必要がある」と訴えた。

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