地方発のベンチャー企業に商機が広がり始めた。新型コロナウイルスの流行に伴うリモートワーク(遠隔勤務)の普及で、東京都内に拠点を置く投資家や大企業と比較的簡単に出会えるようになったためだ。ベンチャー企業の立地による地域間格差が縮小。割安なオフィス賃料など、コスト面の強みを生かし全国各地で起業熱が高まりそうだ。
「対面で一度も会わずに資金調達できた」-。九州大に通う浜崎皓王さんは、3月に古着のレンタルアプリを手掛けるベンチャー会社コレコ(福岡市)を設立した。翌月に東京都内のベンチャーキャピタルからオンライン面談のみで数千万円の出資を受けた。
人工知能(AI)開発のトライエッティング(名古屋市)の長江祐樹社長は5月、ビジネスプランを競い合う発表会「ピッチイベント」にオンラインで初参加した。地方在住の起業家は、商談やイベントのたびに東京に出張し出費がかさみがちだったが、距離のハンディはなくなりつつある。
人材採用の面でも追い風を受ける。ポイントアプリを開発するトイポ(福岡市)の村岡拓也最高経営責任者(CEO)は「在宅勤務が定着したことで、地方企業が東京都内の優秀なエンジニアを採用できるようになった」と話す。副業を解禁する大企業が増えたことも、地方のベンチャー各社の採用活動を後押ししている。
こうした中、地方都市にも軸足を置く企業が現れた。ソフトウエア開発を手掛けるフラー(千葉県柏市)は、6月に新潟市内の拠点を拡充し、渋谷修太社長も出身地である新潟市に移住した。本部機能を徐々に移管し2本社体制にする方針だ。
既存の社員の多くは千葉県のオフィスに残るが「離れていてもオンライン会議で意思の疎通は図れる」(渋谷社長)。新潟市は賃料をはじめ運営コストが安く済むほか、デジタル化が遅れている分チャンスは大きいと判断したという。
これまで情報や資金が集まる場所に身を置くことが起業の成功条件とされてきた。実際、国内のベンチャー企業の大半が東京近郊に集中しているといわれるが、風向きは変わりつつある。
国内有数の産業集積地である浜松市の鈴木康友市長は「(ベンチャー業界の)地方分散の時代が本格的に始まる」と指摘。「彼らの受け皿になれるように、新たなオフィスを創出していきたい」と話した。