ソニーは26日の株主総会で、来年4月1日付で社名を「ソニーグループ」へ変更することを決める。「物言う株主」として知られる米大手ファンドが、稼ぎ頭である半導体事業や金融事業の切り離しを主張する中、ハードからソフト、金融まで幅広い事業の一体感を創出することに企業価値を見いだす経営陣の理念を示したものといえる。同時に祖業である家電などのエレクトロニクス事業の凋落(ちょうらく)に拍車がかかるのではという懸念もある。
金融をコアに据え
5月19日夕、午後4時から予定されていたインターネットによるソニーの経営方針説明会は40分ほど遅れて始まった。東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービスへの情報登録が遅れたためだ。説明会直前に開示されたプレスリリースには予期せぬ「社名変更」のニュースが記載されていた。
経営方針説明会の冒頭、吉田憲一郎社長兼最高経営責任者(CEO)は、創業者の一人の盛田昭夫氏から学んだこととして「長期視点に基づく経営」を挙げ、「新型コロナウイルスが世界を変えた今、私は改めてその重要性を感じている」と強調。ソニーの存在意義を「クリエーティビティー(創造力)とテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と定義した。ハードからソフト、金融まで幅広いソニーの事業を統一する理念が今後の経営に不可欠だということの証しでもあった。
こうした経営方針を具体化したものがソニーグループ構想だ。社名変更に伴い組織改革を実行し、ソニーグループはグループ本社機能に特化し、グループ全体の事業ポートフォリオ(構成)管理やシナジーによる価値創出策などを計画。その傘下にゲーム、音楽、映画、エレクトロニクス、半導体、金融といった事業会社がぶら下がる格好だ。「ソニー」の名称は祖業である家電などのエレクトロニクス事業を担う「ソニーエレクトロニクス」が継承する。
ソニーが約65%出資している上場子会社のソニーフィナンシャルホールディングス(SFH)を、コア(核)事業と位置付けて完全子会社化し、ソニーグループの中に取り込むのも構想の一環。約4000億円を投じて、5月20日から7月13日までの日程でTOB(株式公開買い付け)を実施する。SFHはソニー生命保険など国内に安定的な事業基盤を持っている上、人工知能(AI)などを駆使した金融とITの融合「フィンテック」の技術革新も期待できる。完全子会社化により、グループの最終利益が年400億~500億円押し上げられるのも大きい。
物言う株主に“反論”
ソニーがことさらにグループ経営の強化にこだわる背景には、「物言う株主」として知られる米大手ファンドのサード・ポイントが、稼ぎ頭である半導体事業や金融事業の切り離しを求めていることがある。
ソニーのような複合企業は、単独事業の価値の合計よりも全体の企業価値が低く評価される「コングロマリット・ディスカウント」に陥りやすく、サード・ポイントは「ゲームや映画などの娯楽事業に専念すべきだ」と主張する。そうした批判をはねのけるためにも、正反対の「事業の多様性で経営の安定性を具現化する」(吉田氏)方針を掲げる必要があった。
その象徴でもある社名変更だが、1958年に創業時の「東京通信工業」から製品のブランド名だった「ソニー」に変更して以来、63年ぶりのことになる。当時はトランジスタラジオなどの商品との関連性が分かりやすい「ソニー電子工業」といった名称も候補に挙がったが、盛田氏が「世界に伸びるためだ」として、「ソニー」という単純明快な社名に決めたという。