サービス

リニア品川-新甲府先行開業は消えたか 静岡の協議長引けば再燃も

 静岡県内の工事をめぐって東京・品川-名古屋間の令和9年開業の延期が不可避となっているリニア中央新幹線について、同県の川勝平太知事が品川-新甲府(駅名未定。JR甲府駅から南へ約7キロ)の先行開業を主張している。JR東海と山梨県は実現を否定しているが、両者とも過去に部分開業に言及したことがある。静岡県とJRの協議が長引けば、先行論が再燃する可能性もある。(渡辺浩)

 富士山一周の観光

 「それは何かというと、富士山一周なんです」。川勝氏は6月26日、JR東海の金子慎社長との会談で、品川-新甲府先行開業案をそう説明した。

 川勝氏は「品川からリニアで20分で着くと、南アルプス、富士山、八ケ岳、奥秩父連峰、駒ケ岳…。トンネルを抜けたら雪国じゃなくて、桃源郷です」と山梨の自然を持ち上げた。

 JR身延線を「世界で最も遅い特急列車」「沿線は春夏秋冬きれい」と表現し、東海道線を経由して静岡に出て、東海道新幹線で品川に戻れば富士山一周観光の完成とした。全てJR東海の路線だ。

 新甲府までの先行開業は川勝氏の持論で、平成26年10月の関東地方知事会で、「(東京五輪までに実現すれば)50年前に示した技術力を再び世界に示すことになる」と述べ、1964(昭和39)年の東京五輪直前に開業した東海道新幹線と重ね合わせた。

 JR東海は否定

 川勝氏の提案に金子氏は、リニアは東京と名古屋や大阪を結ぶことに意味があり、乗客数もその区間が圧倒的とし、「指令所や車両基地はワンパッケージで、途中だけ開業すると、造る予定じゃなかった施設を造らなければならない」と、技術的にも難しいとの見解を示した。

 山梨県の長崎幸太郎知事も今月8日の記者会見で、富士山一周を「大変面白いアイデア」とした上で、「リニアが(名古屋まで)通った暁には、渓谷美を見ながら静岡まで旅をしてほしい」と述べた。

 山梨県関係者によると、長崎氏が慎重なのは、先行開業を期待する発言をすると、名古屋までの開業を心待ちにしている長野県に申し訳ないという気持ちがあるという。

 また、JR東海の営業エリアは国鉄分割民営化の際に東海道新幹線と名古屋、静岡鉄道管理局の管轄を引き継いだため、暫定的とはいえ東京-山梨だけを結ぶ路線ができると、中央線の塩尻(長野県)までをエリアとするJR東日本の反発も予想されるという。

 金丸氏が誘致貢献

 「部分開業は既定路線。可能な区間から開業する」。平成22年1月、JR東海の葛西敬之会長(現・名誉会長)はそう語り、相模原(駅位置は後にJR横浜線橋本駅南口に決定)-新甲府の先行開業を表明した。この案は、都市部の地下工事に時間がかかるとの理由で翌年撤回された。

 山梨県の横内正明元知事も在任中、川勝氏に同調したほか、25年11月の県議会で、品川-新甲府先行開業が「観光振興に大きく寄与する」として、JR東海への要望を続ける考えを示していた。

 リニアをめぐっては、山梨選出の金丸信・元自民党副総裁が誘致に大きく貢献したとされている。金丸氏の故郷・南アルプス市選出の桜本広樹県議は今月13日、リニア建設促進議連の会合で先行開業案を県当局にただした。

 石寺淳一リニア推進課長は「今後、名古屋までの開業遅れの幅を注視しながら、どういう対応ができるのか考えたい」と、先行開業要望に含みを持たせた。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus