この10年と今後10年の日立製作所について、東原敏昭社長に書面インタビューした。
--この10年の改革の成果をどう評価しているか
「稼ぐ力を備えた筋肉質な体質に変革できたことに手応えを感じている。コロナの影響で2021年3月期は売上高が約1兆円減、営業利益は約4割減を見込むが、営業利益率5%超を達成できる見通しで、従業員の不断の努力によるものだ」
「上場子会社や低収益事業の再編を含めた事業ポートフォリオの再構築を徹底して進めてきたことで、19年3月期に初めて営業利益率目標の8%を達成できた。リーマン・ショック直後に赤字事業の止血に取り組んだが、その後も危機感を緩めずに改革の手を打ち続けてきたことが大きかった」
--ガバナンス(企業統治)はどう変えたのか
「本体事業は16年4月に社内カンパニー制よりも規模の小さい『ビジネスユニット』に刷新した。私がビジネスユニット長と密に対話することで事業ごとの課題の洗い出し、低収益事業の対策を徹底して行った」
--営業利益率10%達成には何がポイントになるか
「ルマーダのグローバル展開を含む社会イノベーション事業の成長戦略の刈り取りと加速、さらなる構造改革の推進が鍵になる。ルマーダは地域ごとの規制や事情など顧客の要求に応じ、ローカルカスタマイズして顧客に提供する形を作る。構造改革では従来の改革の継続に加え、在宅勤務の活用を標準とした働き方の実現に向け、『デジタルトランスフォーメーション(DX)』を推進する」
--今後のコロナ対策は
「まずは手元流動性の確保や営業キャッシュフローの創出、投資キャッシュフローの厳選などで、キャッシュを重視した経営を徹底する。これまではインターネットやスマートフォンのように技術が起点となり、イノベーションが創出されたが、今後はコロナで人間が感じる不便さや要求をデジタル技術で解決する人間中心のイノベーションが起きると考えている」
--今後10年で日立が変わるべきところはどこか
「18年の中計までは利益率などの業績目標の実現をトップダウンで推進してきたが、今後は従業員一人一人が経済価値だけでなく、社会価値や環境価値の向上をボトムアップで牽引(けんいん)していると感じられる会社であることが重要だ」