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多様な働き方待ったなし テレワークの社内規定整備を

 コロナ禍において従業員の出社を回避するために、ICT(情報通信技術)を活用したテレワークを本格導入した企業が一気に増えた。これまで導入が推進されてきた「多様な働き方」が“待ったなし”で動き出した感がある。(となりの法律事務所 パートナー弁護士・沖崎遼)

 もちろん、テレワークを行うにも労働関係法令の順守が求められる。就業場所をはじめとする労働条件、労働時間の管理については社内で取り決めておかなければならない。就業規則の改定も検討課題となる。また、従業員のストレスチェックも必要となるだろう。

 テレワークをはじめとする多様な働き方は、従業員一人一人のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を高め、業務を効率化できるため、仕事の質が向上する。テレワークは業務の効率化による生産性の向上、時間の有意義な活用というメリットが非常に大きい。

 しかし一方で、企業側にとっては「労働時間の管理の難しさ」「セキュリティー管理」、従業員にとっては「長時間労働に陥りがち」「仕事とプライベートとの区別がしにくい」といった課題が挙げられる。特に今回は、事業活動が制限され、やむを得ずテレワークを導入した背景があるので、課題が浮き彫りになりやすい。

 労務上の主な課題は労働時間の管理だろう。正確に把握するのは困難で、従業員のプライバシーの観点からも厳格な運用は難しい。そこで、「フレックスタイム制」や「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法38条の2)、「裁量労働制」(同38条の3)の導入を検討する必要がある。それぞれ要件や手続きが定められているため、どの制度を導入するかは慎重に検討しよう。いずれにしても、従業員の理解を深めなければならないのは言うまでもない。

 テレワークの本格的な導入にあたっては、企業のリーダーが率先して問題の所在を理解し、その問題の発生を抑えるための社内規定を整えなければならない。それには、従業員との共通認識を持つことが極めて重要だ。テレワークは閉塞(へいそく)感によってストレスをため込みがちであり、自宅の物理的な環境によっては健康問題も生じかねないので、従業員のストレスチェックも課題となる。

 厚生労働省が「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を公表しているので、参考にしてほしい。進んだ針は戻せない。コロナ感染の危機状況が去ったとしても、従来の働き方には巻き戻らないだろう。労働法の制度を上手に組み合わせ、社内規定を整備してほしい。

【プロフィル】沖崎遼 おきざき・りょう 北大法卒、北大法科大学院修了。2012年12月弁護士登録。横浜の弁護士事務所を経て18年1月から現職(第二東京弁護士会)。予防法務に力を注ぐほか、中小企業法務を中心に利益の最大化に役立つサービスをパッケージ化して提供。対処法務やビジネスの仕組みに対しての提案も行う。33歳。北海道出身。

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