リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

ファインデックス・相原輝夫社長(1) 医療システムを核に事業領域拡大

 ファインデックスは医療現場のICT(情報通信技術)化の必要性にいち早く着目し、独自開発した医療システムを病院に提供してきた。全国の国立大学病院でのシェアが約8割という実績が示す通り、高い信頼性と安全性・安定性を求められる医療の世界で確固たる地位を確立した。医療システムが売り上げの9割を占めるが、医療・ヘルスケアデータを活用したヘルステック事業にも踏み込んだ。相原輝夫社長は「高い成長率を維持するため、医療システムを核に事業領域を広げていく」と強調。データの時代といわれる21世紀でも一目置かれる存在を目指す。

 国大向けシェア78%

 --医療システムで圧倒的シェアを持つ

 「1998年に医療システム開発とコンサルティング業務を始めて以来、大学病院など大規模医療機関に医療用データ管理システムを提供している。現在は医療システム、ヘルステック、オフィスシステムの3事業を中心にビジネスを展開しているが、医療システムが収益の大きな柱だ。主要顧客は医療機関で、国立大学病院でのシェアは78%、大規模病院でのシェアは60%を占める」

 「医療の世界では大学病院での製品採用は信頼性と性能の証しであり、一般病院も導入する。このためリードユーザーである大学病院で高い満足度を獲得することが肝心だ。この高い導入率を背景に、多くのユーザーを得ることができた。ライバルが出現しても、メーカーとしてどこにもまねできない優秀なシステムの提供と、患者の命に関わるデータを扱うため実績を求めるという医療業界の参入障壁の高さもあって一目置かれる存在になった」

 検査データ一元管理

 --受け入れられたシステムとは

 「最初に売り上げを牽引(けんいん)したのは画像ファイリングシステム「Claio(クライオ)」だ。日本の大規模病院の5割以上で導入されている。大規模病院ほど内科、産科といった診療科ごとに内視鏡やエコーなどいろいろな検査機器が使われているが、各検査機器メーカーの専用システムで管理されるのが普通だった。つまり、同じ患者でもシステムごとに患者番号を入力する必要がある。病院は不便を感じていたが、『メーカーが違うから仕方ない』と思い込んでいた」

 「これを解消したのがクライオで、患者の各診療科の検査データを一元管理できる。患者のカルテを開けば全て分かるという革新的システムだった。導入すれば、病院のコストは下がり、医師の使い勝手は高まる。それだけ患者へのサービスは向上する。大規模病院が導入したことで一気に火が付いた。クライオをプラットフォームに、他のソリューションシステムもクロスセルで提供を増やしている。院内のシステムを『オールファインデックス』にすることで、病院側はコストが下がり、使い勝手も良くなる」

 --主要顧客が医療機関なので新型コロナウイルス感染拡大の影響は大きいのでは

 「まずは2年に1度の診療報酬の改定が当社業績の大きなポイントになる。2020年は本体部分がプラスになったため、当初はコロナ禍の影響を想定していないこともあってシステム投資意欲は旺盛だった。しかしコロナの流行は収まらず、クリニック(小規模病院)は、外出自粛による診療数減少と罹患(りかん)を嫌う患者の受診控えによる収益悪化の恐れからシステム投資意欲が減退している」

 膨大データをAI分析し価値創造

 「一方、大規模病院は数年かけてシステム導入を準備しており、コロナに関係なく計画を進める。医療現場は大変な状況になっているが、当社は大きな影響が出ていない。しかし、なかなか収束しないと3、4年先は不透明だ。とはいえ医療行為はやめられず、システム投資も止められないので、時期がずれるだけだ」

 --医療現場では患者との非接触・非対面が求められている

 「オンライン診療のようにICTを活用した新しい治療のあり方が広まりつつある。ウィズコロナ下の診療を支援するサービスとして、大規模病院と患者が双方向で安全かつ簡単にコミュニケーションを図れる『患者と病院のWebコミュニケーションツール』を開発し、20年6月からサービス提供を始めた」

 心臓部を自社開発

 --新たな事業領域であるヘルステックは

 「医療は得意分野なので医療機器とデータ管理に注力する。病院にとって医療機器は高価で大きく、検査を行う場所に制限があるものが多い。しかし、技術的に進化するデバイスとソフトウエアを活用すれば『われわれにできる分野は多い』と気づいた。その一つとして開発に取り組んでいるのが、緑内障を検査する視線分析型視野計「GAP」シリーズ。第2弾として、自社開発した新デバイスとAI(人工知能)分析機能を強化した新プログラムを搭載したGAPを21年前半に販売する」

 --開発したGAPの強みは

 「検査装置の心臓部に当たるヘッドマウントディスプレーを自社開発したことで、全く新しい検査方法が実現した。瞳の動きをとらえる技術を使うことで、一般的視野検査のずっと一点を見続けるつらさがなくなった。これまでの視野検査措置より患者の負担が軽く、短時間での検査も可能になった。装置はコンパクトで、検査に暗室が不要になるのも特徴だ」

 「このように視野検査が劇的に受けやすくなる。このため従来装置に取って代わるというより、新しいマーケットを創る。健康診断や人間ドックでの利用も可能になり、失明の最大原因といわれる緑内障の早期発見も期待できる」

 --今後の事業展開は

 「医療システムの売上比率は93%を占め、大規模病院でのシェアも十分に持ち、収益安定に寄与しており重要性は変わらない。しかし、医療システム事業だけでなく、今後は今まで投資を行ってきた医療機器分野の売り上げが期待できるので、売上比率はどんどん均衡していくとみている。医療システムをコアに、その上に医療機器が乗っかる感じだ。予測では5年後に医療機器が医療システムを追い抜く」

 「その次にデータビジネスが追い抜く。多くの病院に提供している医療システムを通じて膨大な医療データを管理しており、データの取り扱いにはたけている。今後はAIを使った分析で多くの価値を創り出していく。これに加えて、GAPから得られる新しいデータを生かす。これまで分からなかった初期の視野異常に関するデータなどの集積と分析が可能となり、従来データと突き合わせることで網膜視神経疾患や脳疾患などの新しい検査や治療法、創薬などを生み出す。日本の医療を支えてきたからこそのデータビジネスといえる」

 機器で海外市場へ

 --海外展開は

 「国内での事業領域拡大のみならず、海外へのビジネス拡大を図る。医療システムに国境はないし、日本の医療システムは精細で高機能にできており世界に誇れるからだ。シンガポールや韓国、タイなどに行ってリサーチすると『ローカライズ(現地語版)できるなら持ってきて』といわれ、マーケットはあることが分かった。だが、実際には輸出に高いハードルがあった。シンガポールでは『出先機関を設けて日本人によるサポート体制をつくってほしい』といわれた。日本と同じクオリティーを求めてくるわけだが、人的対応が困難で話が流れた。この壁を乗り越えられなかった」

 --海外進出を諦めたのか

 「医療機器なら海外が狙える。例えばGAPは、日本だけでなく欧米でも『第2のデファクトスタンダード(新たに創り出す検査市場での事実上の業界標準)』の視線分析型視野計になれる。19年にパリで開催された欧州白内障屈折外科学会にGAPを展示して体験会を開いたところ好評で『すぐに臨床試験を行いたい』といわれた」

 「まずは欧州、続いて米国での販売を予定しているが、コロナ禍でヨーロッパの薬事承認作業が進まず計画には1年以上の遅れが出ている。しかし流通ルートと医師とのパイプを築いた。総販売代理店も決まっており、薬事承認を通過させ、製品を輸出すればいいだけ。医療システムの海外販売は非常に難しいが、医療機器は製品力さえあれば市場獲得も可能だ」

【プロフィル】相原輝夫

 あいばら・てるお 愛媛大教育卒。1990年四国日本電気ソフトウェア(現NECソリューションイノベータ)入社。93年パイオニア四国(現ファインデックス)入社。取締役を経て94年社長。愛媛県出身。54歳。

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