モビリティー新時代

ものづくりが危ない、世界最大8000トンの鋳造機械「ギガプレス」の衝撃

 米電気自動車(EV)大手テスラはこれまで、数多くの革新的なことを実施してきた。今年から多くの自動車メーカーが採用を検討しているソフトウエアの自動アップデート機能「Over The Air(OTA=オーバー・ザ・エア)」は、8年前の「モデルS」から採用。「モデルY」からは「オクトバルブ付きサーマルマネジメントシステム」と呼ぶ新方式を採用し、バッテリーやモーターなどの排熱も利用できる工夫を施した。

 今度はものづくりでも革新的なことを始めたようだ。「ギガプレス」だ。イタリアの鋳造メーカーIDRAに依頼し、世界最大8000トンのアルミニウム鋳造機械を開発した。この機械を使って、リアシャシー部分など、多くの自動車部品を一体の特殊アルミ合金でつくろうというものだ。

 特殊アルミ合金の材料は、テスラ最高経営責任者のイーロン・マスク氏が創業した航空宇宙ベンチャーのスペースXで培った技術を使い、アルミ89%、シリコン8.5%、それ以外に多様な材料を混入しているという。モデルYをベースに比較すると、リアシャシーを構成する部品のうち79点、コスト40%を削減し、30%の軽量化を実現したようだ。従来は多くの溶接ロボットで多数の部品を溶接して車両を製造していたが、一発で超大型部品ができることは、自動車生産技術面で革新的だ。

 この話はIDRA製の世界最大のアルミ鋳造機械に目が行ってしまうが、筆者はテスラ技術者の奮闘があったからではないかと考える。スペースXとは必ずしも同一ではない自動車専用の特殊アルミ合金を開発したこと。さらに、超大型の特殊アルミ合金は金型も含めやり直しができないことから、CAE(コンピューター支援設計システム)による衝突安全性の確保など、これまでにない技術の詳細解析があっただろう。

 テスラはIDRA製アルミ鋳造機械を既存工場に加え、建設中の独ベルリン、米テキサスの拠点にも10台以上導入する予定だ。

 これまで日本の自動車産業は、得意とする溶接ロボットを活用して、いかに自動で車体の骨格をつくるかに苦心してきた。

 しかし、テスラのギガプレスは、そのような工程を一気になくして大幅なコスト低減、軽量化、工程短縮、品質向上を図ろうとするイノベーション技術だ。日本はものづくりでは負けないとの論調を度々聞くが、世界ではものづくりでも革新的な取り組みが出始めており、うかうかしていると負けてしまう。油断は禁物だろう。

(日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎)

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