SankeiBiz for mobile

技術の粋を注いだ無段変速機「CVT8」 低燃費とコスト削減を実現

ニュースカテゴリ:企業の自動車

技術の粋を注いだ無段変速機「CVT8」 低燃費とコスト削減を実現

更新

開発・生産に当たっては、メキシコ工場のスタッフとも綿密な打ち合わせを行った  日産自動車系の自動車部品メーカー、ジヤトコ(静岡県富士市)が中・大型乗用車向けに新たに開発した無段変速機(CVT)「CVT8」は、燃費性能を従来比で10%向上させるとともに、開発・生産コストの大幅な低減を実現した。さらに走行性能を高めることにも成功し、CVTトップメーカーの技術の粋が注ぎ込まれている。

 「ゼロからスタートするプロジェクトよりも、かなり手ごわかった」

 プロジェクト推進室の塩見淳主管は、CVT8の開発に着手した当初をそう振り返る。

 ジヤトコは、世界市場でシェア約5割を占めるCVTの最大手。軽自動車から大型乗用車向けまで幅広い製品を取りそろえていたが、生産効率の向上を目指して製品を2機種に絞り込む改革に踏み切った。それが軽・小型車向けに平成21年に開発したベストセラー「CVT7」と、24年に開発した「CVT8」だ。

 CVT7は部品から新たに設計するとともに、専用の生産ラインを設置する開発・生産体制が取られた。これに対し、CVT8の開発にはコスト競争力の大幅な向上を実現するため、できる限り従来ある設備で生産するという制約が課された。燃費性能を従来比10%改善する目標とともに、開発陣にとっては高いハードルだった。

 コスト削減のため、既存のCVTに使用されていた一部部品を“温存”した。製造拠点である八木工場(京都府南丹市)とメキシコ工場の「ジヤトコメキシコ」(アグアスカリエンテス州)、中国の生産拠点であるジヤトコ広州への設備投資を抑えるには、それが最も効果的との判断だった。

 CVTは約500点の部品で構成されている。CVT8は、このうちベアリング(軸受け)やボルトなど全体の4割に相当する約200点を既存品から引き継いだ。

 新たな投資を避けるため、設計でも「ボルトを締める位置などに手を加えなかった」(塩見主管)。残り約300点でも、コスト削減と燃費改善を両立させるため、「ひとつひとつに改良を加えていく地道な作業を繰り返した」(同)。

 既存部品と、改良を加えた部品の組み合わせ-。一から始める通常の新規開発とは大きく異なるため、設計部門と生産部門にはこれまで以上の緊密な連携も求められた。メキシコと中国の拠点からも多くのスタッフを招き、既存設備をいかに効率よく活用するか、慎重に作業を進めた。

 コスト削減に向け、「本格生産開始時のトラブルを少なくする」(松本憲治・八木工場長)ため、基幹の富士工場(静岡県富士市)に実際の生産ラインに近い小型の試作ラインも導入し、念を入れた。

 変速機の開発では、燃費改善へ向けて部品の軽量化が必須になる。しかし、軽量化は耐久性を弱める要因になる場合もある。損傷を防ぐには、「加工する機械で部品にどのようなゆがみが出るのか」(松本工場長)、できるだけ早い段階で原因を追究しておく必要がある。

 本格的な生産ラインに数十億円単位の設備を投入した後で修正カ所が見つかれば、莫大(ばくだい)な追加投資は避けられない。

 このため試作ラインには、量産ラインと同様の工具やカッター類を導入。折しも検証作業を繰り返した時期は、23年の東日本大震災の前後。製品を出荷できない日々が続いたが、一方で試作に「がっちり取り組むことができた」(塩見主管)という。

 燃費性能を改善するため、最も工夫したのは「プーリー」と呼ばれる滑車の工夫だ。CVTはエンジンにつながって回転するプーリーと、タイヤを回転させるプーリーを金属ベルトでつなぐ。CVT8では、両プーリーの軸を微妙に細くすることで、変速比の幅を広げ、高速走行時にはエンジンを低回転化して燃費を向上させ、発進時には力強い加速を実現した。

 さらに、粘性の低いオイルを新開発するなどしてCVTの摩擦抵抗を約4割低減。一連の取り組みにより、当初の目標だった10%を上回る燃費性能の向上を実現した。

 量産に移行した今でも、コスト対策は重要な課題だ。国内拠点の八木工場では、生産現場が部品を運ぶ無人搬送車の効率的な走り方を考案するなど、一致団結して課題を解決する取り組みが続いている。(伊藤俊祐)

 CVT(無段変速機) エンジンの動力(回転)を走行状況に応じてタイヤに伝える役割を果たす変速機の一種。歯車を使う一般のAT(自動変速機)と異なり、金属ベルトを使って連続的に変速するため、段差がなく滑らかな走りと優れた燃費性能を実現できる。

 ジヤトコ製の「CVT8」は、排気量が2000~3500ccクラスのエンジンに対応。日産自動車のミニバン「セレナ」やセダン「アルティマ」などに搭載されている。

ランキング