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「混合診療」拡大の行方は? 規制改革会議の提言、患者団体が反発

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

「混合診療」拡大の行方は? 規制改革会議の提言、患者団体が反発

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 ■「混合診療」拡大の行方は/安全性と有効性どう図る/保険適用に道が開けるか

 健康保険が使える治療と使えない治療を併用する、いわゆる「混合診療」の拡大を政府の規制改革会議が検討している。未承認の抗がん剤などを、いかに早く使いやすくするかがスタートだったが、患者団体は「皆保険制度を揺るがす」と反対する事態。争点と課題を探った。(佐藤好美)

 規制改革会議が検討しているのは、混合診療の例外規定に当たる「保険外併用療養」の拡大=別項参照。未承認の薬や治療を、もっと容易に保険治療と併用できるようにしたい考えだ。

 病院の限定は

 騒動のきっかけは、政府の規制改革会議が3月27日に示した「選択療養制度(仮称)の創設」。「困難な病気と闘う患者が希望する治療を受けられるよう、選択肢を拡大する」とし、患者が希望し、医師が書面で情報提供すれば、未承認の薬や治療でも保険治療と併用できる案を示した。

 ところが、患者団体が提案に猛反対。がん患者23団体有志は「有効性と安全性が担保されない自由診療の放任や、国民皆保険制度のなし崩し的な空洞化につながりかねない」と、田村憲久厚労相らに反対の要望書を提出した。

 こうした動きを受け、規制改革会議は4月16日、論点整理ペーパーを公表。対象になる治療を「国際的なガイドラインや学術論文があるもの」に絞り、安全性や有効性、患者に不利益がないかどうかを、「全国統一的な中立の専門家が評価する」と軌道修正した。

 ただ、「安全性と有効性」と言いつつ、同会議は医療機関を限定することには否定的。背景には、がん患者が医療機関をはしごして保険外の治療を受けている現状を是正したいとの思いがある。

 だが、当の患者団体からは不安の声が上がる。卵巣がん体験者の会スマイリーの片木美穂さんは「夢のような未承認治療も保険適用の抗がん剤治療もしてくれる医療機関があれば、患者はそこを選ぶ。そうなると、未承認治療を行う医療機関が、慣れない抗がん剤治療まで始めかねない。抗がん剤による突発事例に緊急対応できないような医療機関で治療を受けるのは、患者のためにならない」。

 保険適用への道は

 最大の論点は、選択療養によって、未承認の治療や薬が保険適用につながるかどうかだ。

 規制改革会議は「皆保険制度の維持」を掲げる。選択療養をつくることは、今まで水面下にあった自由診療のデータを集積することになり、保険適用への道が開ける、との立場だ。

 だが、保険適用につなげるには、データは用法や用量を定めた実施計画に基づいたものが必要だ。片木さんは「保険適用を目指すには、有効活用できる質の高いデータが必要。いい加減なことでは困る。それで治療薬が売れるなら製薬会社は治験を中止しかねない。それではドラッグラグは悪化する」と指摘する。

 規制改革会議の中からは、こんな声も漏れる。「ここで対象になったものを全部、将来、保険収載していこうというようなことを、もともと考えているわけではない」

 「費用対効果の面から考えて(選択療養に)とどめておく、といった議論もしているので(その点を)強調すべきだ」

 保険外併用療養を効率化することは重要だが、保険適用に至る期間が延びたら患者の利益にならない。費用対効果の観点は重要だが、関係者を交え、丁寧に検討すべきで、規制改革の観点からすることではない。選択療養をつくるなら、未承認の薬や治療がそこに留め置かれないよう、適切なデータを蓄積し、期待した効果が出なければ外す道筋も求められる。

 165品目の行方は

 規制改革会議が選択療養を求める背景には、欧米で承認されながら日本で使えない「ドラッグラグ」の問題がある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の未承認薬データベースによると、その数は165品目。原因は承認の遅れよりも、製薬会社の開発申請の遅れといわれる。

 4月23日、厚労相の諮問機関「中央社会保険医療協議会」で、診療側委員が製薬会社幹部に苦言を呈す場面があった。「現場ではドラッグラグがあるから治療に困るという話を聞かない。しかし、165品目の開発ラグがあることで、規制改革会議が選択療養をつくろうと提案している。製薬会社は、どう責任を果たすのか。本気で開発ラグを解消する意思を示してほしい」

 ■保険外併用療養なら患者負担減

 健康保険が使える治療と使えない治療を併用することは禁止されており、併用すると、どちらも自己負担(保険外診療)になる。これが混合診療の原則禁止。安全性や効果が確認されない治療に、保険料や公費を投入しないのが原則だ。

 だが、例外もある。保険外併用療養費制度と呼ばれるもので、身近な例は歯科診療。前歯に使う金合金は自費だが、保険治療と併用できる。ほかに、未承認の薬や治療でも、安全性や効果に一定の根拠があり、「先進医療」に認められれば保険治療と併用できる。データを蓄積して保険適用につなげるのが狙いだ。

 保険外併用療養に該当すると、患者負担は安くなる。例えば、ある未承認の治療は平均185万円かかるが、「先進医療」に認められた医療機関で受ければ、治療そのものは保険外でも、それにまつわる入院費などは保険適用にでき、自己負担は140万円程度になる。治療自体が保険適用になれば、自己負担は約9万円(平均所得の現役世代の場合)で済む。

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