ミラノの創作系男子たち

「境界」を自らの智恵で超える デザインの専門家は生き方の“創作系”

安西洋之
安西洋之

 「クリエイティブという言葉は好きじゃない。空虚だ」と話すのはアレッサンドロ・ビアモンティだ。ミラノ工科大学でデザインを担当する教授である。ロンドン市内、2人でバスを待ちながら、道の反対側にある停留所で待っている人たちの姿を眺めていたときの彼のセリフだ。「ロンドンって、クリエイティビティという観点でミラノと比べてどうかな?」とのぼくの質問へのコメントだった。

 「クリエイティブだけじゃない。エッセンスなんかも危うい。それこそデザインという言葉もいい様に使われ過ぎている。言葉を使うには繊細な神経が必要だ」とデザインを教える人間が話す。勢いだけで言葉を振り回すことを諫める。そしてロンドンについて触れる。

 「正直に言うならば、10年くらい前までのロンドンはとても魅力的だったが、今はミラノの方が良い」と説明を加える。「ぼくは成長している街が好きだ。10年前までのロンドンには成長があった。今は横ばい。対してこの数年、ミラノは伸びている」と語るのだ。

 言うまでもないが、ヨーロッパで「クリエイティブ」な世界に生きている人たちは、各国の都市の変化に殊の外敏感である。しかし、アレッサンドロが故郷を離れてミラノに住み始めたのは別の理由だ。

 彼は地中海に接するリグーリア州ヴェンティミリアの出身だ。フランスと国境を接している街である(ぼくは大学生の時に初めて、滞在先のフランスのコートダジュールからこの街に行った。「なんて寂しい街なんだ!」と即踵を返した)。その彼がミラノの工科大学を進学先として選んだのは、高校生の時に付き合っていた彼女がミラノの大学で文学を学んだからだ。

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