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【いきもの語り】サンゴの人工産卵に挑戦する東大発ベンチャー

色とりどりのサンゴ礁と、泳ぎ回るカクレクマノミ、砂からひょっこりと顔を出すヤドカリ…。

中央の茶色いサンゴが昨年抱卵したもの。緑色になると健康状態が回復したことになるという=6月30日、東京都港区(石原颯撮影)
中央の茶色いサンゴが昨年抱卵したもの。緑色になると健康状態が回復したことになるという=6月30日、東京都港区(石原颯撮影)

東京・虎ノ門のオフィス街の一角にある東京大発ベンチャー「イノカ」のオフィスにあるアクアリウム(飼育槽)。200リットルほどと決して大きくはないが、50種類の生物が生息し、生態系豊かな南国の海を思わせる。

そこで行われているのが、サンゴの人工産卵実験だ。創業者の高倉葉太さんによると、世界でも数例しかないという挑戦で、海水を引くなどの手法を取らず水槽内で完結する「完全閉鎖環境」での実現となれば、世界初だという。

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サンゴは植物のイメージを持たれがちだが、実はクラゲなどと同じ刺胞動物に属する。生息できる温度域が狭く、少しの環境変化が産卵に影響を与える。そもそも玄人でも飼育自体が難しい。

この水槽で最も特徴的なのは、モノにセンサーなどを取り付けてインターネットと接続する「IoT技術」を用いて水槽内の環境がコントロールされているという点だ。高倉さんは東大大学院でAI(人工知能)を研究。その技術をサンゴの飼育に活用しようという狙いだ。

サンゴの産卵に大きな影響を与える水温は、沖縄の海とリアルタイムで同期。海中に設置された海水温のデータを水槽に送り、センサーを用いて管理する。さらに養分や微生物の含有量といった水質や光加減なども、沖縄で採取したデータを用いて水槽内に再現している。

昨年7月には、産卵にこそ至らなかったものの、体内に卵を持つ「抱卵」に成功。しかし今年は、他のシェアオフィス利用者に電源を抜かれてしまうといった不運もあり、サンゴの健康状態が悪化。まずは状態を回復して来年の人工産卵成功を目指している。

不慮の事故に備え、水槽内で著しい環境変化があればセンサーが察知し、アラートが届く仕組みも実装。先月、新オフィスに移り、水槽などもより大きいものに刷新するなど設備面の強化も進めていくという。

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サンゴの産卵実験は大きな可能性を秘めている。高倉さんによると、サンゴ礁は9万種類を超える水生生物が暮らす多様性の源のような存在。「沖縄でもサンゴが白化したエリアではコケを食べるような魚しかいないが、サンゴが生きている所では、エリアごとに確認できる生物の種類が異なる」と話す。

しかし、サンゴは数十年後に8~9割が死滅するといわれている。人工的に管理された状態で産卵させることができれば、環境が悪い中でも生きられるサンゴの開発などサンゴ保護に向けた研究の足掛かりになると期待される。

イノカでは新たに人の血中タンパク質をAIを使って画像解析し、体調変化を察知する技術の研究開発を行う東京工業大発ベンチャー企業と手を組んだ。サンゴに応用できれば、より高い精度で健康状態を管理することが可能になるという。

高倉さんは「まずはサンゴが生き延びられる技術を確立したい。100年先も人と自然が共生する社会を作る。それが最終目標です」と未来を見据える。(石原颯)


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