「天然水」は造語だった 消費量20倍で枯渇の恐れは…“水の番人”が明かす実態

川にしみだしてくる水は何年も前に降った雨

「山にどのくらいの水の量が蓄えられているのか、現地調査とコンピューター・シミュレーションによって見極めたうえで、持続可能な量の地下水を汲(く)み上げています」

ラベルや商品名に「天然水」を冠した商品が発売されているが、この「天然水」という言葉は“造語”だったという(SankeiBiz編集部)
ラベルや商品名に「天然水」を冠した商品が発売されているが、この「天然水」という言葉は“造語”だったという(SankeiBiz編集部)

山田さんはこう強調する。サントリーは林野庁と60年間の契約を結ぶと、熊本県の国有林内にある育成途上の森林の整備を開始。同社の水科学研究所の調査では、全国の工場で汲み上げる地下水よりも多くの水を生み出すために必要な面積は7000ヘクタールと算出されたが、2011年に目標を達成した。新たな目標として「2倍の水を育む」ために、1万2000ヘクタールという広大な面積が設定されたが、これも2019年6月に達成したという。こうした活動の発起人となったのが山田さんだった。

「水の保全活動は単に、樹木を植えればいい、間伐すればいいということではありません。人間が良かれと思ってやったことが、環境の変化によってマイナスに作用することもあります」

水の成分分析はもちろん、地下の地質や地層の調査から、水質浄化機能の高い「土づくり」につながる整備計画の立案など、その活動は多岐にわたる。

山田さんによると、2018年7月の西日本豪雨の際、天然水の森では、樹木が根ごとひっくり返る「根返り」はほとんど起きなかったが、対岸のヒノキの山は頂上からふもとまで木々がなぎ倒されていた。管理が行き届いていないヒノキの森は、地面に光が届かなくなり、土が流されてしまう。そうすると、表面のやわらかい土がなくなって根が浮き上がり、水が蓄えられなくなるという。

「2倍の水を育む」ため、全国の「天然水の森」で1万2000ヘクタールという広大な面積が設定されている(サントリー食品インターナショナル提供)

「良い森は降った雨のほとんどが地面にしみます。荒れている森の川は、大雨が降ると一気に増水して濁り水になりますが、良い森の川は濁りません。川にしみだしてくる水は何年も前に降った雨なのです」

大事なのはスポンジのような「ふかふかの土」を育むこと。ふかふかの土壌であれば、降雨でもたらされた水や雪解けの水が大地に浸透していく。その水は数十年という長い歳月をかけ、地層を潜り抜け磨かれ、ミネラル分を蓄えた天然水となる。

そのミネラルウォーターの1人当たりの消費量は33.3リットル(2020年)だが、米国(114.7リットル)やフランス(139.0リットル)、イタリア(187.7リットル)と比べてもまだ少なく、日本国内での需要はさらに拡大するとみられている。

山田さんらのチームでは、地下水の流動モデルなどを分析。スーパーコンピューターにも匹敵する精度でシミュレーションを重ね、地下水量を算出したうえで採水しているという。1年の半分は水源の山に赴き、森を見つめる山田さんは、「自然は決して制御しきれない」と指摘する。その自然に対する謙虚な姿勢は、「森を育てる」というより、「森を慈しむ」といった方がいいかもしれない。

海外のミネラルウォーターの水源地では、汲みすぎによる枯渇の危機が報じられたこともあったが、少なくとも「天然水」の水源地では、そうした心配はなさそうである。厳しい蒸し暑さの残暑が続くが、熱中症予防のカギとなる水分補給のためにも、ここはありがたく、おいしい天然水をいただきたい。

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