21日公表の都道府県地価(基準地価)調査では、商業地は全国的に下落、または上昇幅が縮小した。新型コロナウイルス禍による需要低迷で、それまで観光客らのホテル需要で地価が上昇してきた地域や、飲食店が集まる地域での下落が目立ち、特に大阪圏の商業地は前年の1・2%上昇からマイナス0・6%に下落。一方、主要な地方都市では再開発に加え、コロナで東京などへの人口流出が抑制された影響もあって不動産需要が高まり地価が上昇するなど、明暗が分かれた。
「コロナ禍前の土日は、国内外からの観光客が店に入ろうと、店外まで長い列を作って待っていた。しかし、今ではばったり客が途絶えた。国内からの観光客だけでもいいので戻ってきて欲しい」。下落率が大きい商業地の全国1位(マイナス18・5%)となった大阪・道頓堀地区の喫茶店関係者はこう嘆く。
周辺の商店街からは、インバウンド狙いのドラッグストアや飲食店が相次いで撤退した。この関係者は「お金をたくさん使う中国人客などがいなくなり、高い賃料を払えなくなった店も多いようだ」と話す。
国内の商業地はコロナ禍の影響で飲食店や物販店、ホテルなどを中心に収益が低下し、地価の下落につながっている。9年ぶりの下落に転じた大阪圏のほか、都内の主な繁華街も新宿・歌舞伎町地区(マイナス10・1%)、銀座地区(同9・0%)などが大きく下げた。国土交通省によると、東京より大阪の繁華街で下落幅が大きくなった要因には、訪日外国人観光客(インバウンド)への依存度がより高かったことが挙げられる。
地方でもインバウンド人気が高かった観光地の岐阜県高山市の中心商業地はマイナス10・9%だった。
調査時期の前半に当たる昨年下期になり、飲食店でも宅配の充実化など工夫の動きは出てきたが、国交省の担当者は「どうしても飲食店やホテルは他業種に比べて回復が遅い」と話す。
また、商業地の中では収益性低下が地価に与える影響が小さいオフィスでも、東京圏では相次ぐ企業の撤退などで地価が下落するオフィスエリアも出てきた。
オフィス仲介大手の三鬼商事によると、8月時点の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のビル平均空室率は6・31%。コロナ禍が顕在化した昨年2月(1・49%)の4倍超だ。
不動産サービス大手、ジョーンズ ラング ラサール(東京)によると、都心では今後も大型再開発による多くのオフィス供給が控えており、同社リサーチ事業部の大東雄人ディレクターは「市場にとってマイナス」と指摘。国交省の担当者も空室率の上昇を「悪化の兆し」と懸念する。
また、大東氏は商業地の現状について「インバウンド需要の恩恵を受けて大きく地価上昇してきたエリアは、その反動減に注意が必要だ。いかにパンデミックの影響を抑えつつ、経済活動を再開できるかがカギになる」と話している。
不動産価格上昇「バブル状態」 再開発進む地方都市で上昇顕著
一方、今回の調査では、再開発などが進む地方都市で地価上昇の動きが鮮明になった。人口流入に伴い、市中心部から郊外に向かって不動産需要が広がり、その流れは周辺自治体にまで波及。コロナ禍の影響で、東京など外部に人が転出する動きが抑制されたことも拍車をかけた。一方で、東京近郊も地価上昇の動きが拡大した。
「不動産価格の上がり方がバブル状態。『今後まだ値段が上がるのでは』と売り控えも起きている」
札幌市の南東側に隣接するベッドタウンの北海道北広島市。同市の不動産コンサルティング会社社長は現状をそう説明する。令和5年には市内にプロ野球日本ハムの新球場が開業予定で、さらに価格上昇の期待感は高まっているという。
札幌市では令和12年度に北海道新幹線が札幌駅まで延伸予定で、駅周辺は再開発が進み、同市は商業地(上昇率4・2%)も、住宅地(同7・4%)も地価上昇が著しい。中心地に通える範囲で割安感がある周辺自治体の需要も伸びた。
今回の調査で、特に住宅地は変動率の上昇幅が大きかった全国上位10地点のうち、2~4位(同19・2~18・7%)を占めた北広島市をはじめ、札幌市周辺だけで8地点に上った。
同じ地方中核4市に位置づけられる福岡市では、中心部の博多、天神両地区で2つの大きな再開発計画が進んでおり、商業地(同7・7%)、住宅地(同4・4%)と好調。周辺自治体の地価も押し上げている。
そのほか、残る地方中核4市の仙台市と広島市のほか、新潟市や宇都宮市といった再開発や区画整理などが進む一部の県庁所在地は上昇傾向がみられた。
三井住友トラスト基礎研究所の坂本雅昭投資調査第2部長は「コロナの影響で人事異動などで東京に転出する人が減り、多くの人が残ったことも需要が高い状況が続いた理由の一つ。それに東京や大阪よりも訪日外国人観光客への依存度が低く、需要減の影響がより少ない」と説明する。
東京圏でも都心部では多くの再開発が進んでいる。ただ、都心は既に不動産価格が高くなりすぎていて上がりにくいとされ、東京23区全体でみると、商業地は下落し、住宅地も上昇率が大きく鈍化した。
一方、周辺県では商業地も住宅地も、前回調査より上昇の流れが地域的に拡大した。横浜市や千葉市などに加え、都心へのアクセスが可能な鉄道路線沿いの自治体を中心に上昇するケースが目立った。
坂本氏は「テレワークの定着を見越して勤務先がある都内ではなく、単価が安い周辺部で広い家などを求める人が増えたのでは」と話している。
(福田涼太郎)