権限委譲だけでは足りない? エンパワーメントの真の効力
正しい権限委譲について確認しましたが、今回のテーマは「権限委譲だけでは足らず、エンパワーすることが理想的である」です。どういうことか?
権限委譲は、大前提として縦の関係(上下関係)の元で行われる行為であるのに対して、エンパワーメントとは横の関係と言ってよいのではないかと思います。
エンパワーメントとは、チームメンバーに自律的に行動する能力を与え、独り立ちすることを助けることを意味します。『エンパワーメントの鍵「組織活力」の秘密に迫る24時間ストーリー』著者のクリスト・ノーデン=パワーズは、エンパワーメントとは「自ら行動ができるようにパワーを解き放つこと」だと言います。上司はエンパワーする(部下の能力を開花させる)ことで、部下たちを管理・支配するよりも、はるかに大きな「組織力」とも言える力を手に入れることができるのです。
エンパワーする上司は部下たちに対して目標を明確に示します。ここは権限委譲と同じですね。その上で、目標を自分で達成できる能力と意欲を与えるのがエンパワーメントです。いわば、権限委譲は「セットアップ(お膳立て)」の段階を指しますが、エンパワーメントは「実行能力の提供(レッドブル的に言えば“翼を授ける”)」を意味します。権限を与えた上でエンパワーすることで、はじめて部下の能力が発揮され、最強のチームへと進化するのです。
パワーズはその手順として、次の7つのステップを挙げています。
(1)信頼関係の構築
(2)不満点の明確化
(3)望むことの明確化
(4)実現方法の考察
(5)行動の選択
(6)手順の見極め
(7)コミットして実行
この7ステップを見ると、部下たちに任せるものについて「WILL(やりたいこと)」と「CAN(できること)」を満たすことが必要だということを認識できます。こうして、権限委譲とエンパワーメントが、「WILL・CAN・MUST」の<3つの輪>と結びつきました。当連載のバックナンバー「デキる上司は『WILL・CAN・MUST』を駆使して最強チームを作る」もぜひ合わせてお読みいただければと思います。
エンパワーメントがうまくいくと、あなたのチームはメンバーたちの主体性とやる気で活性化し、あなた自身のリーダーシップも自然なかたちで効果的に発揮される状態となるのです。
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上司であるあなた自身がパワーを持っているからこそ、メンバーたちにエンパワーできます。上司が部下たちをエンパワーし、彼らの力を解き放つと、その部下たちがまた後輩たちや関係者をエンパワーして、その人たちの力を解き放ちます。エンパワーメント・パワーは、あなたを同心円にして波状に無限に広がっていくのです。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら