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【経済#word】#OTA ソフト自動更新で車を進化

自動車メーカーが、無線通信で車に搭載するソフトウエアを更新し、走行性能などを向上させる「OTA(オーバー・ジ・エア)」の採用を始めている。先行する電気自動車(EV)専業の米テスラはサブスクリプション(定額課金)方式サービスによる提供も始めた。他社もソフト更新で稼ぐ新たなビジネスモデルの可能性を探っており、サイバーセキュリティー対策の強化やIT人材の確保などが課題となりそうだ。

■定額課金で提供

走行の電子制御などを行う車載ソフトを更新する際、従来は車を店舗に持ち込むか、整備士に自宅に来てもらい、メーカーから配布されたCD-ROMなどを機器につなぐ作業が必要だった。

これに対してOTAでは、インターネットでデータなどを管理する「クラウド」と呼ぶシステム環境を使い、メーカーから駐車場や自宅などに止められた車にソフトが配信され、自動更新が可能となる。

テスラは2012年にEV「モデルS」で初めてOTAを採用。今年7月には米国で高度運転支援機能「FSD(フル・セルフ・ドライビング)」を月額199ドル(約2万円)で利用できるOTAの定額課金サービスの提供も始めた。

オプションとして1万ドル(約110万円)で提供されていた従来と比べ、気軽に導入できるようになった。現在は高速道路などでの追い越しや駐車などをシステムが支援する自動運転の「レベル2」にとどまるが、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「ソフト更新で最終的に完全自動運転が可能になる」としている。

■日系メーカー追随

OTAで出遅れていた日系自動車メーカーも追随の動きを見せている。

20年6月に国連の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」で、渋滞時の高速道路など特定条件下でシステムが運転を担う「レベル3」やサイバーセキュリティー、ソフト更新についての国際基準が成立した。

これに準じた法整備が日本でも行われ、今年に入って発売された新型車では、市販車で世界初のレベル3を実現したホンダの「レジェンド」や、レベル2相当の高度運転支援技術「アドバンストドライブ」を搭載したトヨタ自動車の高級車「レクサスLS」と燃料電池車「ミライ」にOTAが採用された。日産自動車が今冬発売予定のEV「アリア」でも導入される。

車載ソフトの普及とサイバーセキュリティー対策は切っても切れない関係だ。

16年には、中国のIT大手、騰訊控股(テンセント)のセキュリティー研究者がモデルSにハッキングできる脆弱(ぜいじゃく)性があることを発見。ネットワーク経由でシステムに侵入し、遠隔操作でドアを解錠したり、運転中の車両のワイパーやブレーキを作動させたりできることを実証した。その前にテンセントから報告を受けたテスラはすぐにOTAで脆弱性を修正。大問題に発展することは防げたが、悪意のあるハッカーが走行中の車を遠隔操作すれば、人命にも関わる。

WP29の国際基準は、サイバーセキュリティー対策とソフト更新の適切な管理体制の確保や実施を自動車メーカーに求める。

■ハード面も変化

OTAの導入は車のハード面の変化も促す。従来のガソリン車などでは、車の頭脳に当たるECU(電子制御ユニット)は1台当たり50個以上あるとされ、機能部品ごとに制御する「分散型」であるのに対し、テスラのEVは数を極力減らした「統合型」のECUが制御。情報処理のスピードを上げられ、「OTAとの親和性が高い」(大手メーカー関係者)という。

独フォルクスワーゲン(VW)も統合型ECUを中核に据えた20年発売のEV「ID.3」などでOTAを採用。独ダイムラーは24年以降に投入する自動運転車に次世代OTAを採用する計画だ。

ソフト開発に軸足を移せば、IT人材の確保も重要となる。ダイムラーはソフト戦略子会社のエムビションを設立し、米大手IT企業並みの処遇で技術者を採用。トヨタも自動運転に向けたソフト開発子会社を設け、報酬体系をトヨタ本体と分けるなどして優秀な人材の確保に取り組んでいる。

車の「ソフト化」は、企業の形にも変革を迫っている。

自動運転への期待高く

OTAで進化する車の機能の中でも自動運転への期待はとりわけ高い。自動車メーカーのほか、IT企業なども参入して技術競争は激化するが、技術への過信などが事故を招く危険性もあり、課題は山積する。

自動運転のレベルは5段階あり、ハンドルやブレーキ、アクセルを自動化する「レベル2」以下は、あくまで運転支援だ。特定条件下でシステムが運転を担う「レベル3」でも、ドライバーはいつでも自ら運転ができる準備をする必要がある。

日本政府は令和7年をめどに、自家用車が高速道路で完全自動運転ができる「レベル4」を実現させたい考えだ。

しかし、今年8月には東京・晴海のパラリンピック選手村を巡回するトヨタ自動車の自動運転バス「e-Palette(イーパレット)」と視覚障害者の選手が接触する事故が発生した。トヨタの豊田章男社長は「想像力、配慮が欠けていた」と述べる一方で、「インフラ整備やユーザーの倫理観も重要だ」と訴え、自動運転を受け入れられる環境づくりの必要性を再認識させた。

(経済部 宇野貴文)


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