今年は仏英独の艦艇が相次いで日本に寄港し、自衛隊と共同訓練を重ねる機会が際立った。欧州政治が専門で日本の防衛政策にも詳しい慶応大の鶴岡路人(みちと)准教授は共同訓練などを振り返り、欧州諸国との連携強化に向け、日本は「宿題だらけだ」と指摘した。
--仏政府が共同訓練の活発化に資する円滑化協定の締結を打診してきた
「議題として想定されていた。仏にとっては共同訓練をやるのなら協定を結んでおくというだけで通常の手続き。他方で日本では法的、政治的に敷居が高い」
--なぜ敷居が高いのか
「(協定交渉の)経験が浅い上に、米軍駐留に伴って起きてきた外国軍人の犯罪への懸念があるほか、協定締結で部隊をどんどん送り合うようになるのかとの批判的な見方もある。日本政府も慎重にならざるをえないのだろう。豪との交渉難航は防衛協力の機運にも水を差した」
--仏の艦艇寄港と日米仏共同訓練への評価は。仏側は無人島で訓練を行いたい意向だったが、演習場での訓練になった
「仏側はもう少し実践的な訓練ができたはずだと思っているようだ。円滑化協定がないことも足枷だったが、中国を刺激することに政治的懸念もあったのだろう」
--英の空母クイーン・エリザベスとの訓練はどうだったか。航空自衛隊は関東東方などでの8日間の訓練期間中、F35A戦闘機を1日だけ2機参加させたが
「空母は短距離離陸・垂直着陸可能なF35Bを英軍の8機、米軍の10機艦載していた。英米はどちらかの国の艦艇や航空機が不足しているときに補い合い、自国の装備のように一体的に運用する『代替可能性』を重視し始めている」
「英米は日本寄港を含めた今回の空母打撃群の展開により、世界中でF35Bを含めた共同作戦能力があることを示した。特に英は空自のF35Aとともに日米英による実践的な訓練を期待していたが、空自のF35Aの訓練参加は限定的で、日本は及び腰だった」
--そのような姿勢では空自がF35Bを配備しても代替可能性に加わる意志がないどころか、日本周辺の有事で米英の共同作戦を傍観することになりかねない
「それが大きな懸念だ。欧州に対して中国の脅威を強調してきたのは日本なのに、いざ仏英が本気になったら慎重姿勢に転じたようにみえる。日本の本気度が試されており、多くの宿題が残ったといえる。来年以降は仏の原子力空母や英の原子力潜水艦の寄港を受け入れるか否かも問われる」
--独も11月に海軍艦艇を約20年ぶりに日本に寄港させ、海自と訓練を行った
「戦力的にはフリゲート艦1隻だったが、(中国との経済関係を重視してきた)あの独も来たという政治的意味は重要だった」
--中国の脅威をにらみ、仏英独のインド太平洋地域への関与は続くか
「関与する姿勢は変わらないだろう。価値を共有するパートナーとして日本は欧州諸国の関与を徹底的に活用すべきだ。『こういう訓練を一緒にやろう。お互い利益になる』と積極的に提案する姿勢が重要だ」
「日米同盟だけでなく、さまざまな国と協力して日本の防衛と抑止力を高め、地域の安定にもつなげていく発想が必要だ。『日米同盟とそれ以外』という二分法的な考え方は古い」 (聞き手 半沢尚久)