また原田氏は試験的な取り組みとして、BI給付が所得階層別にどのような影響をもたらすかについても推計している。この分析によると、BI給付による収入から納税負担を引いた金額を考える場合、600万~700万円の所得層が収入が増えるか減るかの境目になるという。
夫婦と子供2人の家庭であれば、毎月20万円が支給されるBIを十分とみるか、不十分とみるかは人それぞれだろう。ただ、すべての国民が受け取ることができるという分かりやすさは魅力的にも映る。十分な収入がある納税者でも、経済環境の急変で生活が苦しくなり得ることはコロナ禍が実証済みだ。また「BIがあるからリスクをとってチャレンジする人生が送れる」といった前向きな効果も考えられる。
■日本の国民感情にはなじまない?
しかしBIには日本の国民感情にはなじまない側面もある。政府が11月に閣議決定した経済対策に盛り込まれた18歳以下への10万円給付でも所得制限が付けられたように、生活に余裕がある国民への給付は「無駄遣い」と見られがちだからだ。
こうしたBIへの不信感を踏まえ、貧困や経済格差への対応策としては、所得制限を設けて実施する税額控除と納税額が少ない低所得層への給付金を組み合わせた「給付付き税額控除」も候補に挙がる。これにマイナンバー制度を活用して収入がない国民にも給付金を支給できる仕組みを作れば、BIと同様の経済効果を実現できるともされる。
SOMPO未来総合研究所の野田彰彦上席研究員は、BIをめぐる世界の状況について「実験的な導入の事例は出てきているが、踏み込んだ議論にまで至っている状態ではない」と分析。「BIは(巨額の財源の裏付けが必要な)大きな政策であるだけに、広範な国民の合意がなければ実現は難しい」と述べ、本格的な導入に向けたハードルの高さを指摘している。