再生可能エネルギー拡大に課題山積 脱炭素社会実現へ火力・原子力の活用不可欠

    2018年7月の西日本豪雨の影響で、山の斜面ごと崩れ落ちた太陽光発電設備=兵庫県姫路市
    2018年7月の西日本豪雨の影響で、山の斜面ごと崩れ落ちた太陽光発電設備=兵庫県姫路市

    地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量削減が待ったなしとなっている。電力部門では、発電時にCO2を排出しない太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入拡大を迫られている。しかし、再エネには乱開発により自然災害を誘発する懸念があることに加え、天候によって発電量が変動するという安定供給面での不安や賦課金の上昇により利用者負担が増大するなど課題山積だ。資源の少ない日本では、エネルギーに関して温暖化防止、安定供給、経済性という3つの実現が必要不可欠。これらの実現には、不安定な再エネの出力変動を補う火力発電やCO2を排出せず安定的に低廉な電力を供給できる原子力発電など、多様な電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」が欠かせない。

    石炭火力の扱いが焦点

    「気候変動という人類共通の課題に日本は総力を挙げて取り組んでいく」

    英国のグラスゴーで11月13日まで開かれていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)。岸田文雄首相は同2日の首脳会合の演説でこう宣言した。首相はアジアにおける火力発電の必要性を指摘した上で、「アジア全体のゼロエミッション化(温室効果ガス排出ゼロ)を推進する」と強調した。COP26は、CO2を多く排出する石炭火力発電の扱いが焦点となったが、13日に採択された成果文書ではインドなどの意見を踏まえ草案の「段階的な廃止」から「段階的な削減」に表現が和らげられた。

    太陽光乱開発で災害

    日本はCOP26に先立つ10月22日に新たなエネルギー基本計画を閣議決定。2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する目標の実現に向け、再エネを「主力電源として最大限の導入に取り組む」と明記した。従来の温室効果ガス削減目標である13年度比26%削減を大きく上回っており、その前提として30年度の電源構成で再エネを「36~38%」にする目標を掲げた。これは19年度実績である約18%の約2倍に当たる(図表1参照)。

    だが、導入拡大は容易ではない。特にここにきて問題になっているのが、太陽光発電施設の乱開発だ。開発のために山林が切り開かれ、その結果、土砂崩れなどの自然災害を招いているなどを理由に、再エネ設置に抑制的な条例を制定する自治体が急増している(図表2参照)。

    再エネの拡大に伴い、適地が少なくなる中で、地域との共生をいかに図るかが大きな課題となっている。

    不安定な再エネを火力発電が調整

    電力の安定供給への不安も大きい。安定して電気を供給するためには、電気を使う量とつくる量を常に一致させなければならない。しかし、再エネは天候によって発電量が変動することから、電力需要に発電量を合わせるために出力調整が容易な火力発電が必要となる。再エネが拡大するほど変動する発電量も増えるため、火力発電の必要性も高まることになる。火力発電の中でも、安価で埋蔵量が豊富な石炭は重要なエネルギー源だ。日本はCO2排出量が少ない高効率の石炭火力発電技術で世界をリードしており、さらに今後は燃やしてもCO2を排出しないアンモニア等を活用することで火力発電のゼロエミッション化を進める方針だ。

    再エネ賦課金が家計圧迫

    再エネの拡大に伴う「賦課金」の上昇は家計や企業を圧迫する。再エネ普及のため、再エネで発電された電気は電力会社が一定の価格で買い取り、その費用の一部は「賦課金」として電気料金と合わせて利用者が負担する仕組みとなっている。その負担額は21年度で2.7兆円、一般家庭では1世帯当たり年間1万円程度に上る見込みで、再エネの導入拡大で負担がさらに増大する懸念が拭えない。

    原子力再稼動で料金抑制

    原子力発電は再エネと同様に発電時にCO2を排出排出せず、既に技術が確立された重要な「脱炭素電源」である。運転コストも低廉であり、安全性が確認された原子力発電所の再稼働が進めば、再エネの賦課金や火力発電燃料の高騰による電気料金の上昇を抑制する効果が期待できる。安定供給や経済性も考慮したうえで、COP26で約束した30年度の温室効果ガス削減目標を達成し、さらに50年のカーボンニュートラルを目指すには、再エネだけでなく、火力や原子力も含めた「エネルギーミックス」が必要不可欠だ。

    専門家に聞く 社会保障経済研究所代表・石川和男氏

    再エネ36~38%は困難 ベストミックスの追求を

    社会保障経済研究所代表 石川和男氏
    社会保障経済研究所代表 石川和男氏

    再生可能エネルギーを2030年度に36~38%に引き上げるという目標のハードルは極めて高く、事実上不可能だと考えている。最大の問題は、再エネの主役と期待される太陽光発電設備の適地が見当たらないことだ。すでに日本の導入量は世界3位で、平地面積当たりの導入量は世界のトップだ。これ以上増やすには、さらに山林を切り開くしかなく、〝自然破壊エネルギー〟になってしまう。土地の改変が不要な住宅やビルの屋根への設置を進めたとしても、1%しか増やせない。洋上風力発電への期待は高いが、漁業権の問題で開発には時間がかかり、簡単には増えない。仮に増やせたとしても、電気料金に上乗せする賦課金が跳ね上がり、利用者の負担が増大する。その結果、再エネに対する信頼性が損なわれ、導入拡大への反発を招く恐れがある。利用者負担の増大を軽減してくれるのが、低廉な電力を供給でき、脱炭素電源である原子力発電だ。また、再エネを拡大するには、バックアップ電源としての火力発電を用意しておくことが必要となる。しかし、電力自由化による競争激化などを背景に新規の火力発電所を建設する投資が停滞している。このままでは火力発電所の老朽化が進み、いざというときにバックアップできず、電力危機を招くリスクがある。既存の原子力発電所の再稼動によりトータルの発電コストを引き下げるとともに、バックアップのための火力発電への投資を促し、再エネと原子力、火力をバランスよく活用するベストミックスを追求すべきだ。

    いしかわ・かずお 1989年東大工学部卒。通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁、生活産業局、産業政策局、中小企業庁、大臣官房などで勤務。2011年から社会保障経済研究所代表。政策アナリスト/政策家として、社会保障関連産業政策やエネルギー政策、公的金融などの分野で政策研究・提言を行っている。


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