「労働者の3分の1が公務員」汚職が起きやすく…石油産出国を苦しめる“資源の呪い”の罪深さ

    ■産油国は資金援助に活発な国々でもある

    このことを、ほかならぬサウジアラビア、またUAEやカタールといった周辺の産油国はよく知っている。これらの産油国は、世界で最も資金援助を活発に行っている国々であり、とりわけ援助の対象には同胞であるムスリムが多数を占める国・地域が目立つ。筆頭に挙げられるのはパレスチナであろう。報じられるところでは、過去20年間、サウジアラビアは総額65億ドル以上の資金援助を、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などをつうじて行っている(Al-Arabiya, August 15, 2020)。

    オイルショックに見られたように、サウジアラビアはパレスチナ紛争(中東和平)についてはイスラエルを非難する立場を明示しており、パレスチナ人への支援はこの一環として続けられている。また近年では、2015年5月に現国王の名前を冠して設立されたサルマーン国王人道支援・救済センター(KSRelief)が、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の協力のもとでイエメンやシリアの避難民、またミャンマーからバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民(いずれも主にムスリムである)を対象に、やはり数十億ドル単位の資金援助を続けている。

    ■「人道支援活動」には厳しい声も聞かれる

    いうまでもなく、こうした人道支援活動は国際社会、とりわけイスラーム諸国の間で、イスラーム世界の盟主としてのサウジアラビアの存在意義に影響するものだ。ほかにも、かつてのオスマン帝国の領土であった東ヨーロッパのバルカン半島諸国や、かつて「中国」として国交を築いていた台湾など、ムスリムが少数派の国・地域ではモスクの建設費の援助やクルアーンをはじめとした書籍の寄贈も積極的に行っている。

    ただし、こうした活動でサウジアラビアが世界のムスリムの庇護者や、人権外交に勤いそしむ国家といった評価を得るわけでは必ずしもない。たとえば、「パレスチナ難民に金銭援助をする前に、彼らの人権状況が改善されるための外交的努力をイスラエルに対して直接に行えばいいではないか」といった非難は定番である。またKSRelieが支援対象に含むイエメン難民の増加は、サウジアラビア自体が2015年に軍事介入したことでイエメンの内戦が激化したことと無関係ではない。ロヒンギャ難民に関しては、「(難民を生んだ)ミャンマー政府を批判する一方で、中国新疆ウイグル自治区のウイグル族の状況は見て見ぬ振りか」といった厳しい声も海外メディアからは聞かれる。


    高尾 賢一郎(たかお・けんいちろう)中東調査会研究員

    1978年三重県生まれ。同志社大学大学院神学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(神学)。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、日本学術振興会特別研究員PD(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)などを経て、2019年4月より現職.専門は宗教学ならびに現代イスラーム思想・社会史。著書『イスラーム宗教警察』(亜紀書房、2018年)、『宗教と風紀』(岩波書店、2021年、共著)。訳書 サーミー・ムバイヤド『イスラーム国の黒旗のもとに』(青土社、2016年、共訳)。

    (中東調査会研究員 高尾 賢一郎)


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